実践+発信

創造的なコミュニケーション コラボレーションのための 「チャンス発見学」 9/27大澤幸生先生の講義レポート

2014.10.17

この講義では、大澤幸生先生(東京大学システム創成学専攻教授)が提唱する学問分野「チャンス発見学」の基本的な考え方を、具体的な事例に基づいて解説していただきました。

講義は、「イノベーションとは何か」という問いから始まりました。
写真右の人物は、トーマス・エジソン。白熱電球を発明した人物と思っている方も多いでしょうが、白熱電球を発明したのは、実は写真左のヨゼフ・スワンなのです。それではなぜ今日の我々にとって、エジソンの方が圧倒的に有名なのでしょうか。それは、彼は電球のみならず電化製品も多く作り、さらには電力網の整備までをも手がけることによって、単なる一つの技術や製品ではなく、それが社会の中で有効に機能するための環境、システムまでも創りだしたからです。その結果電球は広く普及し、人々の生活にも大きな影響を与えることとなりました。このように、私たちのライフスタイルまで変えてしまうような新しい価値を創造する、そのことこそが、「イノベーション」の本質なのです。
制約を加えることで見えるもの
次に大澤先生は、丸、四角、三角、記号など15個の異なる図形を示しました。そして、
1.どれでもかまわないので図形を3つ組み合わせて、何でもよいので役に立つものを描く
2.指定された3つの図形のみを組み合わせて、何でもよいので役に立つものを描く
3.どれでもかまわないので図形を3つ組み合わせて、「交通安全」の役に立つものを描く
というお題が示されました。
隣の人と相談し、一番面白いものに挙手をしてもらったところ、僅差ですが、2の図形が面白い、という結果になりました。
この結果は、「人間が発想するとき、完全に自由にするよりある程度の制約条件を与えた方が創造的なアウトプットが出る」というフィンケ(Finke)の研究成果に合致します。 創造的認知のためのGeneploreモデル(フィンケ)によると、認知のプロセスは、生成段階(Generative Phase)と探索・解釈の(Exploranatory Phase)の2段階からなります。このモデルは、いずれの段階においても単に自由に発想させるのではなく、適度な制約(Constraints)を課したほうが創造的発明が生まれる可能性が高い、ということを主張しています。 「制約」という新たな概念を組み込むことで、解が見つかったり、新しい視点が生まれたりする一方で、どのような制約でもよいわけではなく、「良質の制約をいかに与えるかが重要」と説明がありました。

チャンス発見学とは

続いて、「チャンス発見学」という学問領域の着想に至ったエピソードとともに、この学問領域についての説明がありました。

「閉店間際のスーパーで、ビールをつまみを買おうとした。3枚で1000円のするめを見つけたが、高いので買わずに、かわりに安いスナック菓子を購入した」というもの。「チャンス」とは、人の意思決定を左右する出来事であり、ここでの「チャンス」は、「するめ」ということになります。大澤先生は、するめは高くて買わなかったが、するめを見つけたことをきっかけに「何かつまみが欲しい」という自分の潜在ニーズに気づき、その結果スナック菓子を購入しました。するめは、たとえそれ自体は購入されなくとも、スナック菓子の購買行動に重要な役割を果たしたという点において、まさに「チャンス」だったということになるのです。
こういった、めったに売り上げのないようなアイテムであっても、分析(analysis)だけでなく、さまざまなデータを統合し(synthesis)、組み合わせることで、役に立つかもしれないビジネスモデルを考えることが、「チャンス発見学」なのです。
大澤先生の研究グループが開発した分析ツール(キーグラフ)を用い、複数のデータ間の関係性を可視化していく手法も紹介されました。
われわれ科学技術コミュニケーターにとって、さまざまな実践の中で新しいデータを組み合わせることによって「チャンス」の発見を目指すための大変有益な手法と、その背後にある哲学、コンセプトを教えていただきました。
大澤先生、ありがとうございました。