実践+発信

「オープンエデュケーション科学コミュニケーション」8/1重田勝介先生の講義レポート

2015.8.8

レポート:小坂有史(2015年度選科 研究補助員)

今回は、北海道大学情報基盤センターに所属し、高等教育推進機構オープンエデュケーションセンターの副センター長も兼任されている重田勝介先生が、ご自身の体験をもとに「オープンエデュケーションと科学コミュニケーション」との関わりについて解説してくださいました。

オープンエデュケーションとは?

オープンエデュケーションは、教育をオープンにし学習する機会を広げる活動のことです。その特徴は

・無料の教材や教科書をインターネット上で公開していること

・学びたい目的に即して、適切な教材を取得できるウェブサイトであること

・受講者どうしが学び教え合う事によって学習の意欲と成果を高めること

が挙げられます。そして、この仕組みは様々な財団から寄付を受けるなど、すでに社会から広い支持を集めています。その背景には、

・教育格差を是正するという社会貢献活動

・税金収入が多くを占める公共財としての大学が「知」へのアクセスを改善する

といった理念の面と

・オープンエデュケーションを提供している大学等に、興味を持ってもらうリクルーティング

・教材費の削減と授業の質の向上

という実利の面が共存しているという状況があります。

また、オープンエデュケーションでインターネット上に公開される教材はOpen Education Resources(OER)といい、誰でも自由にアクセスできるだけではなく、二次利用しやすいようクリエイティブ・コモンズ・ライセンスというオープンライセンスのもとに、新しい用途を目的に手を加えることができます。そして、手を加えた教材を新たに公開する事が出来るという、オープンシェアリングという仕組みも持っています。OERは、知識習得を各自オンラインで予習し、教室ではその確認や議論を行う「反転授業」などに活用することによって教育効果を高めることができます。

MOOCとは何か?

MOOCとはMassive Open Online Courseの略で大規模公開オンライン講座という意味です。様々な学習コースが開設されていて誰でも無料で教育を受けることができ、テストを受け課題を提出すると修了認定証が発行されます。現在、世界中から数万人を超える受講者が参加する学習コミュニティーとなっていて、ミートアップという受講者同士のオフ会が開かれるそうです。これらの仕組みはe-learningと似ていますが、学生でなくても無料で受講できる点と、ほとんどのケースで単位は与えられないがコース完了が必須ではないという点が異なっています。

重田先生は、実際にMOOCで「オープンエデュケーションと未来の学び」という講義を昨年7月に開講されました。その中でMOOCの効果として

・同じ興味を持った受講者同士が「出会う」

・講師が受講者から自分の専門外の領域について「学ぶ」

・受講者の学びが新しい知識や知恵を「創り出す」

といったことを感じられたそうです。

オープンエデュケーションと科学コミュニケーション

最後は、重田先生から

(1)オープンエデュケーションを「科学コミュニケーション」に使うとすればどんなことが可能か?

(2)オープンエデュケーションだけではできない科学コミュニケーションとは何か?

というお題が出され、それぞれについて3〜4人で議論しました。

(1)については、サイエンスカフェ等の予習、参加した後の記憶の定着や振り返り、継続して学ぶための教材として使えるのではないか、という意見や、教室では簡単に実演できないもの(危険を伴うような実験など)を見せることができるといった意見が出されました。また、オンラインであることによって、専門家と市民の対話が教室よりもフラットになり色々な意見の交換ができる可能性もありそうです。

(2)については、その場にいないと感じられないことを伝えるのは難しいという意見や、リアルな体験することができないといった意見が出ました。

オープンエデュケーションには様々な可能性がある反面、できる事とできないことが存在するのも事実です。オープンエデュケーションで教育方法のすべてをカバーするのではなく、その良さを用いる事によって教育がより一層効果的なものになると言えるでしょう。そして、その特徴を利用した科学コミュニケーションの可能性はさらに広がっていくとも言えます。

重田先生、ありがとうございました。