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「科学技術コミュニケーション実践の評価は可能か?どうあるべきか?博物館の事例を中心に-」10/3 佐々木亨先生の講義レポート

2015.10.29

レポート:酒井 郁哉(2015年度 本科 対話の場の創造実習/総合化学院 修士1年)

自分が行っている活動をより良いものにするには、客観的な評価が欠かせません。では、科学技術コミュニケーションの実践においては評価をどのように行っていくのがふさわしいのでしょうか。そのヒントを得るため、今回の講義では博物館評価の事例について豊富な経験を持つ佐々木亨先生がお話しくださいました。

佐々木先生は旅行代理店添乗員からシンクタンクの研究員、博物館の学芸員を経て現在は北海道大学大学院文学研究科の教授という異色の経歴を持った方です。経営のノウハウがあまり構築されていなかった博物館をサポートするため博物館学を学んだこと、そして評価学の学会に参加し評価の基本について学んだことが博物館の評価に深くかかわるきっかけでした。現在は北海道立総合博物館協議会委員長としても、ご活躍なさっています。

「評価する」とは?

評価学では、「評価」という単語について「プログラムや政策の改善に寄与するための手段として、明示的または黙示的な基準と比較しながら、プログラムや政策の実施あるいはアウトカムを体系的に査定すること」、すなわち、事実の特定および価値の判断を行うことで改善を手助けすることだと定義しているそうです。このことから佐々木先生は評価を人間ドックにたとえ、悪いところを切り捨てるのでなく改善する道筋を照らしてくれる道具だと表現しました。また、評価と意思決定は異なるものであり、評価を行う人とその評価を参考にその後の指針を決める人とは別である、ということも留意していなければなりません。そして、評価には事業の改善支援だけではなく、アカウンタビリティ(説明責任)の確保や学術的な貢献といった目的もあると先生は付け足しました。

TORの必要性

ある事業において評価を行う場合、評価する側とされる側で評価の方向性(何を、いつ、誰のためになど)を明確に決めておく必要があります。このように調査事業者へ委託することを明らかにしたものをTOR(Terms Of Reference)と呼んでいます。評価は基本的に以下の4つの視点から設計します。

(1) 妥当性…社会的なニーズと事業を行う目標が当てはまっているか

(2) 適切性…計画したことがきちんと行われているか

(3) 有効性…事業を行うことでどれだけの効果が見られたか(このとき、外部の要因をできるだけ排除しなければならない)

(4) 効率性…かかった費用が適切かどうか

評価は基本的にそのとき現存するデータを用いてしか行うことができません。そのため、事業を行ったあとに評価を依頼する場合は行う前から十分なデータを取っておくことを心がけていなければならないのです。

博物館をどのように評価するか?

一般的な定義においての評価は理解できましたが、博物館においてはどのような形で評価が行われているのでしょうか。文化や芸術についての評価は、いまだ未成熟な分野であるため、ODA(国際援助)などの他分野の手法を援用していることが多いと先生は述べます。そうした中で、博物館の評価において特徴的な3つの事例についてお話ししてくださいました。

1つめは展覧会においての観覧動線の修正です。講義では、江戸東京博物館の常設展の展示の映像をもとに、どのように工夫すれば展示で伝えたいことを効果的に示すことができるか受講生みんなで意見を出し合いました。観覧動線を見直すことで、適切な動線で利用客が見学するようになり展示の有効性を高めることができます。2つめは来場者数や満足度といった指標を用いた網羅的な業績測定です。この手法は博物館評価において最も頻繁に行われており、改善の支援よりも情報公開に特化したものになります。最後に、新聞や雑誌などで掲載される批評家による展示批評です。こうした手法はデータを比較する上記ふたつの手法に対して非常に主観的ですが、博物館においては有効な評価になりうると考えられています。

博物館評価のこれから

最後に、先生は博物館評価の展望についてお話ししました。これまでの博物館評価は利用者と施設の間の交換関係においてしか目を向けてきませんでしたが、博物館の運営費のほとんどが税金で賄われていることを考慮して、地域社会への貢献について説明していくことが重要になるとのことでした。博物館の資料そのものが持つ「本質的価値」だけではなく、博物館が地域社会へ貢献することで生まれる「手段的価値」やコミュニティ内の絆を育む場として博物館が貢献して生まれる「共同体的価値」といった視点が重視されるのではないかと考えられています。また、評価手法のひとつとして本来切り離されるべき評価する側とされる側が一体となって評価にかかわる「参加型評価手法」も注目されているとのことです。

今回は「評価」という一見ありふれた言葉に対し、多くの発見を得られた講義で、また科学技術コミュニケーションにおける展示やワークショップの評価にも応用できる点が多々あったのではないかと思いました。2015年度CoSTEPも折り返し地点を迎え、振り返りを行うことが多くなってきますが、今回の講義で得られた視点を生かして活動していきたいと考えています。

佐々木先生ありがとうございました。