実践+発信

「科学ドキュメンタリー出来ることとは」1/7 中井暁彦先生の講義レポート

2017.2.10

岡田知(2016年度 選科B/学生)

科学ドキュメンタリーに出来ること

科学ドキュメンタリーは、論理的に説明できる内容なら何でも取り上げることが出来ます。食の安全、エネルギー、情報技術、医療など私たちの身の回りは科学技術の進歩で劇的に変化してきました。これらの科学技術の中から、「話題を集めていること」、「わかっているようでよくわからないこと」、「まだ知られていないが重要なこと」という観点からテーマを選び、科学的に社会を考えるきっかけを提供するのが科学ドキュメンタリーの役割だと中井先生は考えています。

2017年初めてのCoSTEP講義は、NHK科学・環境番組部デスクの中井暁彦先生が担当されました。『サイエンスZERO』、『ガッテン!』、『クローズアップ現代+』、『コズミックフロント☆NEXT』、『ロボコン』などを担当し、現場に出かけて行って番組をつくるスタイルだと言う中井先生に、「科学ドキュメンタリーに出来ることとは」というタイトルでお話しいただきました。

先にあげた三つの観点に全て当てはまる状況が東日本大震災における福島第一原発事故です。中井先生は『メルトダウン』というシリーズの1作目で、この事故がなぜどのようにして起きたのか、その原因を追究しました。

 

科学ドキュメンタリーの手法

 

科学ドキュメンタリーで主に使われる手法は次の四つです。

①現場のルポルタージュ

②コンピュータグラフィックス(CG)

③検証実験

④再現ドラマ

物事を論理的に説明するために、この全てにFACT(事実)が必要です。中井先生らは事故の記録や写真、証言、数千枚にのぼる原発施設の図面などを集めて事故当時の状況を正確に再現しました。集めたデータを使って核燃料の状態や津波の侵入経路をシミュレーションし、出来る限り緻密に検証することで事故の原因を浮かび上がらせました。

一つの番組で伝えられるメッセージは決して多くありませんが、何年もかけて事故を検証することで事故から学び、前に進めるのではないかと中井先生は言います。

「何を伝えたいか?」ではなく「何が伝わるといいのか?」

 

科学を語る上でFACTは不可欠です。しかし、FACTを並べるだけでは必ずしもうまく伝わるとは限りません。FACTをどのような順番で積み上げるかによって物語のストーリーが変わり、伝わり方も変わります。中井先生は今までの経験から、「自分が何を伝えたいのかということよりも、何が伝わるといいのかを考える」という視点にたどり着きました。

視聴者に「番組を見て科学のことを知ってよかった」というお得さを感じてもらうため何が出来るのかを考えること。これは中井先生が科学ドキュメンタリーをつくる中で自分にできることなのだそうです。

伝えたい内容と相手を見極めること、物事を理解するための世界観を共有するために必要なことを考えることは科学ドキュメンタリーに限らず様々なコミュニケーションで役に立つと思いました。そして「何が伝わるといいのか」というのは私にとって新しい発想でした。大きな視野を持ってコミュニケーションが出来るようになりたいです。中井先生ありがとうございました。