実践+発信

選科A活動報告『「役立つ」だけでいいですか?体で測る研究の価値~』

2018.9.27

選科A  2班 「RULERS」

天井涼、高桑衣佳、浪花彰彦、橋本涼子、丸本萌

私たちは、普段から様々な価値観で物事を評価しています。しかし現在、研究の世界では「役に立つかどうか」というものさしで、研究の価値が評価されることがほとんどです。私たち“RULERS”は、「研究の価値を測るものさしは1つではないのではないか?」という疑問を抱きました。そこで今回、私たちは「役に立つ」と「おもしろい」という2つのものさしを例に、様々な研究の価値を考えてもらうサイエンスイベントを実施しました。

1. イベントの目的と達成目標

【対 象】

科学技術コミュニケーション(Science and Technology Communication : 以下STC)に興味がある大人。

【目 的】

「研究を評価するものさしは1つではない」ということを参加者に考えてもらう。また、科学技術コミュニケーターの伝え方についての考えに変化を起こす。

【達成目標】

・「研究は役に立たないといけない」という考え方に疑問を持ってもらう。

・サイエンスイベントの前後で参加者の価値観に変化を起こす。

・研究を評価するものさしが多様であることを感じてもらう。

2. イベントに向けた準備

「新しい企画にチャレンジしよう。」テーマ決めを行う際に、あえて対象をSTCに興味がある大人と制約をかけ、研究の価値観を問うというやや難しいテーマとすることで、私たち自らの新たな学びを促すとともに、参加者への心の揺さぶりを与えるようなイベントを目指し準備を進めていきました。

「役に立つ」と「おもしろい」の2つの研究の価値観に注目し、話し合いを行っている様子

3. イベント本番

このイベントでは、研究の価値を測るものさしに焦点を置き、それぞれの質問に対して「役に立つと思う」と「おもしろいと思う」の度合いを示し、自分の気持ちを表す場所にグラフの点になったつもりで移動してもらうアクティビティを行いました。また、移動後に、参加者にインタビューを行い、価値観の多様性について考えてもらう場をつくりました。

座標の横軸は「役に立つと思う」度合い、縦軸は「おもしろいと思う」度合いを表す

【言葉の定義】

2つのものさしには様々なとらえ方があるため、このイベントの中では、言葉の定義づけを行いました。

前のスクリーン上で2つのものさしの説明を行う様子(ナレーション:高桑衣佳、PC操作:浪花彰彦、タイムキーパー:橋本涼子)

【問いかけ】

参加者には会場後方に移動してもらい、大きな座標軸の上を動いてもらうことで価値観の揺さぶりを促しました。まず、質問①では、アクティビティMCがデモンストレーションを行い、参加者がスムーズにアクティビティに参加できる工夫を取り入れました。また、質問③では、一度移動した後に追加情報を与えることで価値観の変化を生じさせ、再度移動を行う機会をつくりました。

質問①の数学の価値についてデモンストレーションを行うアクティビティMC天井涼と丸本萌

座標上を移動する参加者たち

移動時間は30秒(BGM再生)に設定し、BGM終了後、参加者にはその場にしゃがんでもらい、インタビューを行いました。

追加情報を得て意見が変わった参加者にインタビューを行う丸本萌

インタビューの内容は「数学のおもしろいところは?」や「その場所を選んだ理由は?」など、他の人の意見を知ることで参加者自身との価値観の違いを感じてもらいました。また、インタビューを行う際に、アクティビティMCがインタビュー内容を要約して復唱することで参加者への共有をはかる工夫を行いました。

最後に、参加者には元の席に戻ってもらい、研究を評価するものさしは「役に立つ」と「おもしろい」だけではなく、多様なものさしが考えられることを伝え、STCに興味がある参加者に向けて最後の問いを提示しました。

4. アンケート結果、フィードバック

アンケート回答者は36人でした。この36人の中で、今回のイベントで私たちが対象にしていた「STCに興味がある人」は35人(約97%)とほとんどの参加者がこれに該当していたことがわかります。

そして、今回のイベントを評価する上で私たちは、STCに興味がある人35人の中でイベントの目的に沿った「① 研究を評価するものさしが多様であると感じられた人」と「② 科学技術コミュニケーターの伝え方の考えに変化があった人」に関するアンケート結果に注目しました。

①「研究を評価するものさしが多様であると感じられた人」は、26人(約74%)

②「科学技術コミュニケーターの伝え方の考えに変化があった人」は、20人(約57%)

比較的多くの参加者がものさしの多様性を感じ、伝え方の考えにも変化が生まれていたことがうかがえます。

しかし一方で、どちらの目的も達成した人(下図の黄色い部分)は35人中15人(約43%)という結果でした。また、4つの質問の関係性やインパクト性、より考えの幅が広がるものさしの視点の提示など、検討の余地を感じさせるコメントを数多くいただきました。このことから、問いかけ方や座標軸の定義を工夫することなどの改善が必要であると私たちは考えました。