実践+発信

「現場のチカラ実現する政策科学技術を人々の「自分事」にするために-」(12/1)伊藤伸先生の講義レポート

2018.12.14

三上 博光(2018年度 選科B/社会人)

今回は、伊藤伸先生(一般社団法人構想日本総括ディレクター)から、「現場のチカラで実現する政策-科学技術を人々の「自分事」にするために-」と題して、講義をしていただきました。伊藤先生は、内閣府参事官として政府の事業仕分け、行革全般を担当したご経験を持ち、現在は構想日本というシンクタンクで、政府・自治体への政策の提言・実現、改革活動のサポートをしておられます。

公益の担い手を他人事から自分事へ

 

公益の担い手は誰でしょうか?日本では、政治や行政が公益の担い手だと考えている人が多くいます。政治家や公務員に任せっぱなしにすることを「他人事」とよぶことにします。過去はそれで良かったかもしれませんが、現在では、「社会の変化」と「政治・行政の対応」との間には、大きなギャップが生じています。このギャップを埋めるために、政治や行政が公益をすべて担う仕組みを見直し、住民自身が公益を担う部分を拡張することを「自分事」といいます。自分事にするための重要な要素は現場力です。次の例をみてください。

無作為抽出手法を活用した取り組みの広がりと成果

 

従来の住民参加型の会議では、参加者は公募で選ばれることが多く、意識の高い人が集まる反面、同じような顔ぶれだったり、議論が形骸化しかねません。参加する住民を無作為に抽出することで、年代や性別の偏りを是正し、幅広い民意をつかむことができます。無作為抽出手法を用いた最新の事例をご紹介します。2018年11月〜2019年2月に4回開催される、住民協議会「自分ごと化会議 in 松江」です。テーマは、「原発(中国電力島根原発)」ですが、原発再稼働の是非を決めることが目的ではありません。地元住民が原発を自分ごととして考えていくこと(自分ごと化)が目的です。主催にあたっては住民らによる実行委員会が組織され、私もコーディネーターとして関わっています。住民団体が単独で住民協議会を主催するのは、全国で初めてのケースです。現場力が発揮されるよう期待しています。

政府の事業仕分け

 

事業仕分けの名付け親は構想日本です。2009年の事業仕分けで、民主党蓮舫議員が「二位じゃダメですか」と言った言葉が、一躍注目されました。次世代スーパーコンピュータ事業について、「科学に費用対効果が馴染まないとしても、多額の税金が投入されることの成果が見えない」、「文科省がスピード世界一を目指す意義は定性的、情緒的」という議論の過程で出た言葉ですが、今なお予算カットのパフォーマンスだと誤解、曲解されています。この事業は2015年の自民党政権下でもレビューの対象になりましたが、文科省は「スピード世界一を目指すのではなく、省エネ性能など総合的な性能を追求していく」と説明しました。つまり、2009年の事業仕分けの議論は間違いではなかったのです。当時はテレビ各局が毎日のように同じ映像を放映したことが今でも影響しているのかもしれません。冷静な目で、「本質」は何かを探すことが重要です。

伊藤先生は、無作為抽出手法が「積極的には発言しないが、社会的な関心が高い日本人の国民性」に向いているのではないかとも仰っていました。自分が将来何かの「自分ごと化会議」に無作為抽出で選ばれたときは、必ず参加しようと思いました。

伊藤先生ありがとうございました。