実践+発信

「「科学コミュニケーター」職業にできる?」(2/2) 本田隆行先生の講義レポート

2019.3.3

岩澤大地(2018年度 本科/学生)

今回は、科学コミュニケーターをフリーランスでしている本田隆行先生から、「科学コミュニケーターは職業にできる?」というテーマで講義をしていただきました。

30歳を目前に、魔が差す

大学を卒業後、地元の市役所に就職した本田さん。30歳を目前に、改めて自分のこれからを考え、東京のとある科学館の採用試験を受けました。その試験に合格した本田さんは役所の仕事を辞め、科学コミュニケーターとして科学館で働き始めます。

科学コミュニケーターとして科学館から独立

科学コミュニケーターとして働きながら、確かな手応えを感じ始めた2年目の半ば。その科学館の任期は最長5年であるため、外に出ることを徐々に考え始めていたある日、毛利館長から「今の仕事に覚悟はあるか」と聞かれた本田さん。一晩悩んだ末、「覚悟はあります」と答えた本田さんはその時、科学コミュニケーターとして独立することを決め、フリーランスとなりました。

フリーランスの「つなぐ人」として尽力した3年間

専門家と非専門家の間をつなぐことをテーマに、フリーランスの科学コミュニケーターとしての活動を始めた本田さん。科学館のプランニング、運営のサポート、TV出演や本の執筆など様々な場と手法で間をつないでいきました。しかし、金額の設定や、そもそも科学コミュニケーターって何?何ができるのなど、様々な壁に直面します。それを1つ1つクリアしていく中で、科学コミュニケーターとして 必要とされる要素に気づきます。

武器を複数持つ

ある専門家ではなく、科学コミュニケーターとして活動するには武器を複数持つ必要がある、と話す本田さん。なぜ自分の専門以外にも長けていなければならないのでしょうか。

間をつなぐ。つまり2者の間を埋めるためには両方からの視点が必要となります。しかし、もし1つしか武器を持たなければ、2者のうち一方の側にしか寄り添うことができず、もう一方はすぐに離れていってしまいます。複数の武器を持ち、両方の視点に立って中立でいるからこそ、間をつなぐことができる、と本田さんはおっしゃっていました。

科学コミュニケーターは職業にできるのか

本講義のタイトルにもなっているこの問い。本田さんはそれに答える前に科学コミュニケーションを職業にすることと科学コミュニケーターを職業にすることの違いについて解説してくださいました。

科学コミュニケーションを職業にする、ということは何か専門性の高い領域(大学や研究機関など)に所属し、その領域の中から外に手を伸ばすこと。つまり専門家が科学コミュニケーションの知識を使って外部にアウトリーチを行なっていくこと、と本田さんはおっしゃっていました。

一方で、科学コミュニケーターを仕事にするというのは、そのどちらにも属さずに間に立って両方をつなぐ人になるということです。だからこそ専門的過ぎても、逆に非専門的過ぎてもいけない、間に立って両者の着地点を見出す人なのだと本田さんはおっしゃっていました。

そして科学コミュニケーターを仕事にするには、つなげることに価値を見出してもらう必要がある、と語る本田さん。しかしながら、その価値に気づいてもらうのはまだまだ難しく、これから地道に、様々な人につなぐことの価値を知ってもらっていくことが必要なんだ、と本田さんは講義の最後に語っていました。

講義を受講して

私は科学コミュニケーター、科学コミュニケーションがどう仕事になるのかわからない、とCoSTEPの面接時に言った覚えがあります。今回の本田先生の講義はその疑問に対する1つの答えであったように思います。

専門分野だけでなく、複数の武器を持ち科学コミュニケーターとしての新たな道を切り開き続ける本田さんの「覚悟」は、CoSTEP修了間近の多くの受講生に、これからどう自分自身で歩んでいくかの大きな示唆となったのではないでしょうか。

 本田隆行先生、ありがとうございました。