2015 CoSTEP10周年
サイエンスカフェ札幌の事例紹介#2

2015年2月15日(土)開催

ゲスト:藤吉 亮子さん(北海道大学工学研究院量子理工学部門 准教授)

自分のお住まいの地域で、福島県産のお米を学校給食に導入しようという行政からのお知らせが来たらどう考えますか?

2011年3月に起きた福島第一原子力発電所の事故。その影響で、今も故郷に戻れず避難生活を余儀なくされている方々がいます。2014年秋、現状を知るため北海道大学CoSTEPの受講生たちは福島を訪れました。線量計を手にしてみると、原発周辺では未だ線量の高いところもありましたが、札幌と変わらないところもたくさんあると実感しました。また、原発周辺の町村や仮設住宅で行ったインタビューでは、復興への喜びや希望を語る人々がいる一方で、今後への不安や、記憶が風化していくことへの危機感を口にする方もいました。農家の方々には、農業再建にかける思いを伺いました。

「なつかしい未来へ」はCoSTEP修了式シンポジウムとも連動した、福島を考える一連の企画でした。これらは科研費によるプロジェクト「映像メディアを介した新たな科学技術対話手法の構築」の支援で進められ、この研究費を元にCoSTEPでは2014年度リスクコミュニケーション選択実習を立ち上げました。

私たちは、東日本大震災からもうすぐ4年になる福島の現状を知り、放射能に関する科学的知識を身につけて、福島の未来を考えるために企画を進め、その一環としてサイエンスカフェを実施しました。

このカフェの特徴は、実際にCoSTEPの受講生たちが福島へ調査に行き、現場で調べたこと、感じたことを映像でレポートした点にあります。藤吉さんの科学的なお話に、受講生の福島での現地映像報告をまじえながら進行するという、新しいスタイルを試しました。

前半では、ベクレルやシーベルトといった数値の読み解き方を通して、放射能の影響について科学的な面から理解することを目的に話を進めていきました。後半は福島の農産物に関するお話です。福島は全国有数の米の産地ですが、原発事故以降は、販売が伸び悩んでおり、お米の放射性物質について世界初の全量全袋検査を行っています。藤吉さんの科学的解説に加え、福島の農家のインタビューや全袋検査の様子を通して、放射能汚染と安全性について来場者の皆さんと考えました。

最後に、藤吉さんが「研究者と一般市民をリスクコミュニケーションによって結ぶ人たちが何より重要」であり「科学的根拠に基づいたぶれない見解をもった集団が市民とコミュニケーションを粘り強く続けていくことが必要」だと述べました。

触媒としてどう機能したか

福島での経験を来場者の皆さんと共有するための様々なアイデアを試しました。受講生の池田 貴子さんは、福島第一原発周辺での放射線計測の様子について映像で報告し、放射線量とGPSデータをもとに数値を表示した地図を見せました。

渡邉綱介さんが実際に福島で使った線量計を、お客さんに見せながら、カフェの会場を計測しました。現地の放射線量が札幌と比較して、どの程度のものなのか、会場のお客さんとやりとりしました。また、福島の原発事故のような科学を超えた社会問題について本格的に来場者と考えました。福島では2014年12月末までに計測した米は、全て基準値を下回っています。この万全な検査を受けたお米を、学校給食に導入している現地の状況について、受講生が映像でレポートしました。

この学校給食問題について、厳格な検査体制を伝えると同時に、福島の母親たちから不安について伺ったインタビューも流しました。その上で、会場の皆さんに「自分のお住まいの地域で、福島県産のお米を学校給食に導入しようという行政からのお知らせが来たらどう考えますか?」と、意見を聞きました。その結果、およそ賛成が3割、反対が7割でした。

参加者からは以下のような意見が寄せられました。

  • 「福島を応援している姿に敬意を表します。」
  • 「給食への導入は一番難しい手法である。(特に上からの動きは逆効果なのです)子どもたちの背後には様々な保護者があり、学校現場はたとえ極少数の意見であっても十分に尊重し慎重に当たっている。その点からも給食への導入は、周囲の地域社会がゴーサインを出して初めて出来る事。→子供たちの実践は大人たちの思いを十分後押しできる。十分な地域、親のコンセンサスを得られることが一番大切。我々は、東日本大震災で学んだことは決して風化させてはならないことです。ぜひこれからも支援のため頑張りましょう。頑張ってください。」
  • 「再建が厳しい中で原発再稼働の方向は理解しがたい。その中で大熊町の取り組みは素晴らしいと思います。」
  • 「安全性の科学的根拠や農家の努力が分かりました。しかし、そもそも「原発はアンダー・コントロール」などという政府のスタンスが不信を生じさせていると思います。」
  • 「講演からも、最後の川嶋さんの話から、福島県の人たちが、想像以上に事故の深い傷を大きく抱え続けている。「風評」の言葉などから胸をつかれた」

※川嶋 茂雄 氏は福島現地調査のコーディネーター