2015 CoSTEP10周年
サイエンスカフェ札幌の事例紹介#3

光る分子が世界を描く〜 カメレオン発光体、発明! 〜

2013年7月21日(日)開催

ゲスト:長谷川 靖哉さん(北海道大学大学院工学研究院教授)

蛍光灯など、世の中にはさまざまな光るものがあり、私たちはそれらを利用してきました。そしてもっと役に立つ光るものを作るために、現代の化学は分子を操作するナノの領域に突入しています。ゲストの長谷川 靖哉さんは、紫外線をあてると光る「発光分子」を作る名手です。これまでに、世界で最も強く赤く光る分子を作成しました。さらに2013年5月には温度によって色が変わる「カメレオン発光体」を発表しました。さて、この発光体は何に使えるのでしょうか?

第70回のサイエンス・カフェ札幌では実験デモや展示を交え、発光分子によって光るものを実際に見ながら、これらがどのように作られたのかを長谷川さんに話していただきました。そして、それらの発光分子を何に使い、どのような未来を描くのか、参加者の皆さんと議論しました。

最先端の科学技術が切り拓く未来に夢をもちたい。

長谷川さんからは「光るもの」にはどのようなものがあるのか、というお話がありました。光るものは蛍光管といった電気エネルギーで光るものだけではありません。光をあてると光るものもあります。洗剤の中には、真っ白に見せるための発光分子が入っています。蛍光ペンのインクにも発光分子が含まれています。

これらの発光分子は有機分子でできており、熱に弱いという性質があるため、応用の幅が狭いという弱点がありました。そこで長谷川さんが着目したのは「金属錯体」です。有機分子の中心に金属をもつこの分子は、熱にも強く、様々な性質を持つ発光分子を作ることが可能なのです。長谷川さんはこれまで作ることが難しかった赤色に光る金属錯体の作製に成功しました。また、2012年には光る強さが世界一の金属錯体の作製にも成功しています。これにより、既に開発されていた青と緑の発光分子とあわせて、フルカラーの発光が可能になり、世界的に非常に大きなインパクトを与えました。

さらに2013年の5月に、長谷川さんは「カメレオン発光体」というこれまでにない発光体を発表しました。これは緑に光る金属と、赤く光る金属の二種類を含む金属錯体で、緑色から黄色、オレンジ色、赤色と、氷点下から200度という広い幅で、正確に素早く変化する全く新しい発光分子なのです。実際にカメレオン発光体が塗られた紙飛行機を液体窒素で冷やして紫外線をあてると緑色に光り、温風をあてるとみるみる黄色からオレンジ色になりました。実物の迫力に会場からは「おーっ」という喚声があがりました。

カフェの後半は、これらの発光体にはどのような使い方の可能性があるのかをテーマとしました。現在、カメレオン発光体はいわゆるスペースシャトルの設計での応用が進められています。会場からは、「カメレオン発光体をビルに塗って巨大な温度計に」「化学物質などを検知するセンサーに使える発光分子」「がんを検知する発光分子」といったアイディアが飛び出しました。長谷川さんによると、実はこれらについても検討されているとのことでした。

ユーモアあふれる語り口で会場を沸かせた長谷川さん。最後は「どんなに便利な物でも人体や環境にとって良くないものは使うことはできない」との言葉でお話しを締めくくられました。科学技術を考える上で重要なメッセージだったのではないでしょうか。

触媒としてどう機能したか

サイエンス・カフェ札幌での好評を受けて、同じテーマでさらなるイベントを展開したのもこのカフェの特徴でした。まず同年8月7日に北海道等が主催する『2013サイエンスパーク』にて「まるでカメレオン!?光る生物の世界の不思議」を開催しました。

参加者の小学生が、発光分子が入った絵具で光る生き物を描くという趣向です。このワークや、実在の光る生物のトークを通して、先端材料化学と生物学、そしてデザインを学ぶことを目指しました。このイベントは、長谷川研の学生とCoSTEPデザイン班の受講生が主となって企画・運営したのもカフェとの違いです。子どもたちが主体的に関わるためにはどうしたらよいか、科学的な要素をどのように組み込むか、といったことについて学生同士で議論を続けました。その結果、子どもたちの夏休みの記念となるようなイベントができました。

さらに10月27日には『札幌デザインウィーク2013』に「光るサイエンスワールド」を出展しました。今回も対象は小学生ですが、「サイエンスパーク」と異なり、科学に興味を持っている子どもばかりとは限りません。前回の経験を活かしつつ、内容を改善して挑みました。

CoSTEPの教員が実施した第70回サイエンスカフェ・札幌を元に、CoSTEP受講生と長谷川研の学生が対象と形式を変えて展開させたこれらの一連のイベントは、サイエンス・カフェ札幌が作り上げてきた学内外のネットワークがあってこそ可能となったイベントでした。