小沼 嘉乃(2019年度 選科A / 学生)
モジュール1の「科学コミュニケーション概論Ⅰ」の三回目、池辺 靖 先生(日本科学未来館 科学コミュニケーション部門専門主任)の「科学の何を、どのように伝えるのか? そしてどうなるのか?」では、実体験や科学館における事例を通して「記憶に残る体験」をキーワードに講義が行われました。
記憶に残る博物館・科学館体験
来館者の記憶に残る体験を提供するにはどうしたらいいのか。記憶に残すためのヒントを見つけるため、自分の記憶に残る博物館・科学館体験を発表しました。小学生の頃、家族と巨大シャボン玉の中に入って遊び、感動した科学館や図鑑に載っていた恐竜を見上げてはしゃいだ博物館の記憶。私の記憶に残る体験は、神奈川県立生命の星・地球博物館で「アンモナイトの壁」を見たことです。自由に触ることができる巨大な岩盤による標本展示で、色々な大きさや柄のアンモナイトの観察にワクワクしたことを覚えています。皆さんの記憶に残る博物館・科学館体験はどのような体験でしょうか。色々な人の個性溢れるエピソードをもっと聞いてみたくなりました。
“楽しい体験は記憶に残る”
記憶に残る体験の事例として日本科学未来館の来館者が記憶に残った展示を紹介していただきました。電気自動車、生分解性プラスチック、環境共生型住宅。しかし、来館者を惹きつけた理由は、その科学的な存在意義を理解したからではなく、来館者の生活スタイルや価値観をベースに目的とは違うストーリーが構築されたからであるといいます。
記憶に残るとはどういうことか
記憶に残るとは個人的体験化が起こる時であるそうです。利用者と展示物の相互作用の中で、「つながり、共感し、変化する」というプロセスを経ることで記憶に残る博物館体験が実現されます。利用者が理解し(つながり)、捉えた感情(共感し)から自分の中に新しいものが生まれる(変化する)。この楽しい体験が、脳に記憶となって残ります。そしてこれは受け取る人の持っている知識や経験、関心といった個人的・社会的コンテクストに依存しています。
科学の”何を”伝えるのか
現代では、科学技術は社会の至るところに浸透しており、私たちはあらゆる場面で科学技術の影響を受けて生活しています。一方で、科学とは本来何のための道具なのか、科学技術を利用して、どういった社会にしたいのか・何をしたいのかを考えるという倫理や規範や価値観が相対的に小さくなっています。そのため、科学技術の本質を対話によって取り戻す必要があります。その対話とは、科学技術の課題を発見、解決するための対話、科学技術の選択についての対話、価値観や未来像についての対話です。
科学技術が人々に大きな影響を及ぼし、社会に不可欠な価値を生み出すものである現代であるからこそ、多くの人と科学の視点でみた世界観や未来にあり得る選択肢を共有していくべきであると感じました。そして、科学技術が進展した未来がどうなったら嬉しい・幸せかという価値観を話し合えるような科学技術コミュニケーターになりたいと思いました。
池辺先生、ありがとうございました。