実践+発信

ラジオ155:2009710

2009.7.10

 

色とりどり!発光の科学

科学技術コミュニケーターに聞く! 毎日新聞科学環境部記者 元村有希子(もとむらゆきこ)さん

研究室に行ってみよう 北海道大学大学院・地球環境科学研究院・山田幸司(やまだこうじ)先生

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◆研究室に行ってみよう 〜色とりどり!発光の科学〜

今日は、我々CoSTEP第5期生の「ラジオ番組制作実習」の第2回目の放送です。

今回の「研究室へいってみよう」のテーマは「化学発光」。

北海道大学大学院地球環境科学研究院で化学発光に関する研究をされている山田幸司(やまだ・こうじ)准教授の研究室へ伺いました。

北大地球環境科学研究院・山田幸司先生

インタビュワーは、三原義広さんです。

山田先生からは、まず、モノが光る仕組みについて、わかりやすいご説明をいただきました。 発光のメカニズムに関しては3つのタイプがあるそうです。

光エネルギー(事故防止用の反射テープ、時計の光る文字盤など)による発光、

電気エネルギー(液晶や有機ELによるテレビの画面など)によるもの、

そして生物発光です。

生物の発光といえば、ホタルやチョウチンアンコウが思い浮かびます。こうした発光は、酵素の反応で起こるもので、非常に効率が良いといわれています。 昨年のノーベル化学賞受賞者、下村脩博士がオワンクラゲから見つけたGFP(緑色蛍光タンパク質)でおなじみですね。

 

山田先生は、中でも化学的な発光現象に関して詳しく調べています。学生時代から「世界にひとつしかない物質を作ること」を目標に有機合成化学の研究をされてきました。そして、こうした光によって、細胞分裂を目に見えるようにしたいと考えました。

 

その後、北大で開発された「鈴木・宮浦カップリング法」を使っていろいろな蛍光物質が合成できるようになり、化学発光の研究が大きく進展しました。

 

先生の研究室で、これまでの研究成果の一部である、赤色、青色、緑色など様々な色の発光物質を実際に見せていただきました。

山田先生の研究室で見せていただいた発光物質

小さな箱の中に並んでいるきれいな光を見ると、カラーセラピーを思い起こし、ほっとさせられます。

これらの物質は、蛍光色素を有機溶媒の中に溶かしたもので、光(ブラックライト)を当てると光るそうです。

 

元の蛍光物質は同じものですが、それを溶かす有機溶媒が油成分に近いと青くなり、有機溶媒が水に近いと赤くなる、というように色を自在に変えることができるのです。

赤い発光物質と青い発光物質

 

そもそも化学発光技術を開発したのは、米国のNASA(航空宇宙局)で、衛星内の照明器具へ応用したのが始まりとも言われています。激しい衝撃が加わったとしても、電気を使った照明器具と違って、故障することがないからです。発光化学が進歩して様々な分野に応用されることで、科学技術全体の発展につながっていくのです。

インタビュワーの三原さんと山田先生

 

化学発光の研究は、医療や食品衛生の分野にも大きく役立つそうです。

例えば、現在では多くの手間と費用が必要とされる正常細胞とがん細胞の識別や、安全な食品かそうでないかを見分ける作業が、将来は化学発光技術によって簡単にできるようになるだろうともおっしゃっていました。

また発光物質の色が変わることで、化学合成の過程が目に見えて理解することができるようになります。これまでよく分からなかった様々な工業プロセスや有機合成反応そのものが明らかになってくるでしょう。

 

山田先生は、北大祭や各地の高校に出向いて、化学発光と生物発光の違いなどを体験させるようなイベントを通じて、発光現象の面白さを広く一般の人々にも伝えています。

 

また、北大は我が国における「光技術の殿堂」だそうです。他にも光に関する最先端技術の開発をしておられる先生が何人もおられるので、みんなで一緒に光に関する市民向け講座などを開きたいとおっしゃっていました。

皆さんもまた、このような機会がありましたら、山田先生のお話を聞いてみてはいかがでしょうか。

 

◆スタジオ収録秘話 〜NHK永井伸一アナウンサーが飛び入り参加!〜

 

何と今回はスペシャルゲスト、NHKアナウンサーの永井伸一さんがラジオ制作実習に飛び入りで参加してくださいました。永井さんは、2009年6月20日のCoSTEP映像表現演習の講師として北大にいらっしゃったのです。

平日朝のNHK総合「生活ほっとモーニング」の司会や、数々の科学番組の司会でも有名な方です。

NHKの永井伸一アナウンサー(中央)オープニング担当の川島奈那子さん(右)

今回のオープニングコントはいつにも増してハジケていたことにお気づきの方もいるかもしれません。じつは今回は脚本から演出まで全面的に、永井さんにご指導をいただくことができたのです。

カップル役の柿本恵美さんと村松慎也さん

永井アナならぬ永井ディレクター?キュー!

スタジオ収録の様子。司会は私、毛呂達(もろさとし)と近藤奨(つとむ)さん

 

今回の取材を企画したのは三原義広さん。司会は私、毛呂と近藤奨さんが一緒に司会をつとめました。

それにしても楽しい収録でした。永井さん、どうもありがとうございました!

※オープニングと本編は別々の日に収録しました

◆科学技術コミュニケーターに聞く!〜信じれば、道は拓ける (後編)〜

毎日新聞科学環境部記者・元村有希子さんへのインタビュー。今回は後半をお届けしました。以下に内容を記載します。

取材の様子 左は三原さん 右は元村有希子さん

 

Q1.日本の理系のワークライフバランスをどう思いますか。

A1.悪い。いつも、仕事・研究だけをしている感じ。

でもそれだけ打ち込んでやまない目標があることは、今の世の中では貴重なことかもしれない。

ただ、自分自身で限界を決めてしまっていることが残念である。もっとワークに貪欲になってほしい。

研究者が違うタイプの、あるいは外部の人との交流を通じて、自分のやっていることの大切さ、そして分かりにくさを経験することが重要ではないか。

 

Q2.子供たちが参加する国際科学オリンピックなどのイベントをどう思いますか

A2.子供たちが科学オリンピックに出ることは大変良く、うれしいことと思う。

日本では100人に1人が研究者なのに、子供たちに研究者の姿が見えていないように思う。

最近の研究者はカッコ良い。

女性の研究者がもっと子供たちの前に出てきてほしい。

 

Q3.ジャーナリストを目指す人へのメッセージをいただければ、と思います。

A3.自分の好奇心と問題意識を信じて熱中してほしい。

試行錯誤を続けていれば、成長していくはず。信じれば道は開ける。

まずやってみることが大切。

いろいろな経験を通して、沢山の引き出しを作っておくと、いつか必ず役に立つ。

 

■編集では残念ながら入れることはできなかったのですが、他にも以下のようなお話を聞かせていただきました。

 

Q4.科学技術コミュニケーターとして必要な資質や、上手に内容を伝えるコツが何かありますか。

A4.空気を読めること、素人感覚を大事にすることが大切。

たとえ話の内容が分からない場合でも、その雰囲気を伝えることも重要。(不思議ですねー、と同意するなど。)

コミュニケーターとして、何か得意な表現方法を持っていれば、なお良いのではないか。

コツは、自分が面白いと思ったこと、その面白さをそのまま伝えること。

またその研究の危うさ、怖さを伝えることも重要。

結局は、等身大の科学を伝えることが最終的な目標。

 

Q5.元村さんが科学者だったら、今、何を研究したいですか。

A5.今なら、複雑系の研究をしてみたい。波や砂丘などの動き、蝶の羽の美しさ、などを科学の眼で説明できれば良いな、と思う。

 

Q6.今後の活動の予定はありますか。またテーマの上手な見つけ方があれば、教えてください。

A6.今後の活動は、「科学と社会」のことをこれからも取り上げて行きたい。

やりたいテーマは、様々な記事を書いていく中で、自分の中に溜まっていく問題意識があるとき急に湧いてくるもの。

 元村さん、授業前の忙しいところ、長いインタビューに答えてくださって、どうもありがとうございました。

 このインタビューの様子はCoSTEPチャンネルからも配信されます。

「科学技術コミュニケーターに聞く! (Interview with a science communicator)」

〜元村有希子さん〜 part.2(7’02”)

(文責:毛呂達)