実践+発信

「本気で挑戦する科学技術コミュニケーター」(7/10)荒井優先生の講義レポート

2019.8.9

成田 健太郎(2019年度 本科/社会人)

2019年度CoSTEP開講から約2ヶ月が経過し、モジュール3「学習の手法」のシーズンに突入しました。

モジュール3の初回である今回は、札幌新陽高校の校長を務めている荒井 優 先生をお招きして、「本気で挑戦する科学技術コミュニケーター」に必要な学びとは何かというテーマでお話いただきました。

講義の最初は受講生に「現時点で、自分が考える科学技術コミュニケーションとは何か?」という問いかけから始まりました。近くに座っている仲間とグループになり、それぞれの考えをお互いに分かち合いました。

その後すぐに、講義の結論が明示されました。それは「コンフォートゾーンを抜け出すこと」。自分の慣れ親しんだ居心地の良い場所に留まるのではなく、成長のために一歩踏み出すことが大切なのです。自ら学ぶ場を求めて集まってきている意欲的なCoSTEP受講生たちであっても、ここの環境に慣れてしまえば新たなコンフォートゾーンになり得ると言います。

そのため「なぜここにいるのか。何のために来ているのか」という初心を忘れないためのチャレンジを受けました。自身の研究活動で忙しい現役の学生、仕事を抱えていながらも調整して参加している社会人の仲間たちが、同じ場所に集まって学ぶことができている意義をもう一度見つめ直す貴重な機会となりました。

荒井先生は新陽高校の校長に就任する以前、公益財団法人東日本復興支援財団の責任者として支援活動の最前線の現場で働いてこられました。復興に向けたプロセスの中で大切にしてきたのは「開くこと」であり、それは現在の高校運営の現場においても同様に大切な考え方となっています。

まず、一番小さな単位の個人を開いて元気にし、開いた個人が増えると集落が開き、地域が開くようになります。そして、それぞれがお互いのエネルギーを交換するかのように元気になっていきます。重要なことは「対話をたやさないこと」であり、そのベースとなる考え方は「多様性を重んじること」です。

福澤諭吉の『文明論之概略』で記されている「古習の惑溺を一掃する」という言葉を引用して、慣れ親しんだ環境に留まって原点を忘れてしまう危険性について共有されました。上記の本は明治維新から8年が経過した時期に書かれ、時間の経過とともに何のために行われたのか、目的と意義が薄れていったそうです。

うまくいっている例を真似して手法論にこだわるのではなく、精神性が大切であると荒井先生は言います。手段が目的化してしまうと、組織は硬直化してしまいます。そのため、初心に立ち返り、覚悟を決めて本気で挑戦することの重要性が語られました。

新陽高校はかつて評判がよくなかった時代が長く続き、経営難の危機に瀕することもありました。しかし、荒井先生が着任されてからのこの3年間で「本気で挑戦する母校」というスローガンのもと募集定員を超えて生徒が集まるようにまで立て直されました。

高校は何のためにあるのかという本質的な問いに対して、そのあり方に対する答えとして2019年度より探求コースが開設されました。探求コースには定期考査がなく、レポート提出やプレゼンテーションなどを通して代わりに評価されます。

例えば、SDGsについてなど、一つのテーマのために国語や社会科などの科目を横断して学ぶ機会を創り、映像作品の編集、プレゼンを行う授業が行われています。子どもだからという理由でそのレベルに合わせて環境を整えるのではなく、大人の社会人が使っているパソコンのソフトやツールなどを準備しています。

ともに学習を進めるチームは3〜5人で構成され、仲良しのグループを作らせるのではなく、敢えて仲が良くなさそうなメンバーを選んで組み合わせるそうです。得意・不得意な人間関係を超えて、それぞれの強みを活かして弱さを補い合う「多様性」の中でコラボレーションが起こり、その組織ならではカルチャーが生まれていきます。

CoSTEPでも実際に北大の大学院生を中心に、さまざまな業界で活動している社会人、唯一無二の経歴とスキルを持ち合わせている講師陣によって多様性にあふれるコミュニティ、そしてカルチャーが創り上げられてきています。

教育において大切はなことは「帰って来られる場所を創ること」。講義の最後には荒井先生から受講生に「古典を読もう」というテイク・ホーム・メッセージが投げかけられました。紹介された本としては『ホビットの冒険(ゆきて帰りし物語)』があり、「主人公は必ずどこかに出かけていき、そして戻ってくる」というシンプルであっても大切なテーマがそこにはあります。

私自身、北大CoSTEPのコミュニティがとても価値のある居場所となっています。今回の講義により初心を思い返し、自分の今の現状に対して常に問いを投げ続ける大切さを学びました。そして当たり前ではない一期一会の出会いが与えられているこの機会に感謝するとともに、残り約半年間での活動に対する期待がますます高まってきました。

荒井先生、出張続きでご多忙の中、激励のメッセージをくださいましてありがとうございました!