JJSCでは外部のご意見を頂き、編集方針等を改善していくため、アドバイザー制度を設けています。第25号に掲載の論考についてアドバイザーから、コメントをいただきました。公開の許可を頂いたコメントについて公開いたします。
吉澤 剛 オスロ都市大学 労働研究所 リサーチフェロー
- 掲載原稿の内容について
小林・中世古報告について、科学技術コミュニケーター像を求人情報から分析するというアイデアは面白いと思いましたが、日本では求人情報に職務や職能を詳細に明記しないのはコミュニケーターに限らない話であり、大学教員や企業の専門職も同様の傾向にあるという気がします。そもそもURAの仕事がアイデンティティワークと言われるように、自分から積極的に動いて自分の職務や職能、役割を見つけていくという姿勢がコミュニケーターにも求められるのではないでしょうか。種村らの報告は市民関与やテクノロジーアセスメントに向けた討論劇の可能性を示すものでとても興味深く読みました。複数の登場人物によって異なる価値観の可視化を目指すとともに、先端技術を生活空間にグラウンディングさせて観客に対してリアリティをもたせるためのより一層の工夫を期待したいです。塚本らの「アマテラス」の開発について新たなコミュニケーションツールの作成にかかる苦労がうかがえ、高橋らのインタビューも具体的な地震を通して科学情報の伝え方を探るという意味で、いずれも実践者に役立つ報告と思われます。小特集は地域から科学へというテーマでのシンポジウムの内容を収録したもので、大学と地域の協働、ローカルベンチャー、SDGsと異なる実践者を交えた創発的な議論は刺激的でした。ただ、プレーヤーの専門性やメンバーシップのダイナミクスがあるなかで、市民科学やオープンイノベーション、サイエンスショップなどとの接点や、科学技術コミュニケーターという専門職やその役割がどうなっていくかについての展望を見たかったです。いみじくも小林・中世古報告が示唆したように、科学技術コミュニケーターの職務や職能が特定できないのは必然的な流れではないかと感じさせます。 - 掲載原稿のカテゴリー(論文、報告、ノート)について
本号には論文が掲載されなかったのは寂しい限りです。報告、ノートのカテゴリーについて異存はありませんが、前号のコメントに引き続き、本号の掲載論文・報告の特徴、あるいはそれに関わらず科学技術コミュニケーションとして、現在、研究や議論しなければならない点についてハイライトするようなエディトリアル、少なくとも編集後記のような枠の設置を検討してもらえればと思います。 - 掲載原稿の著者について(分布等)
前回と同様です。 - 装丁(印刷物)
いったんオンラインジャーナルになったということで、今回はコメントありません。今後印刷冊子が復活しても、経費削減もありますので、アドバイザーに送付せずとも結構です。 - 編集体制・投稿規定・執筆要領について
前回と同様です。 - その他
今号は、科学技術コミュニケーターの職務や職能についての言及があり、実践者向けの報告が続いたため、実践によって科学技術コミュニケーションという研究分野がより広がり、また、新たに規定されていくという段階に入ったかのような感があります。前回もコメントしましたが、本誌は科学技術コミュニケーションという分野を日本で先導し、世界においてもユニークな役割を果たすという気概があるのかどうか。小特集のテーマや論文・報告の構成からはそれが感じられますが、編集委員会の言葉として語られない以上、もどかしさがあります。23号よりアドバイザーを拝命し3号が経過しましたが、アドバイザーによるコメントやアドバイスがどのように受け止められ、あるいは活かされたのかがわかりにくく、編集委員会とアドバイザーとのコミュニケーションも不足しているのではないかという気もします。こちらとしても、編集委員会の編集方針などをもう少し教えてもらえればとも思います。たとえば今回、8本の論文査読を行いながら1本も掲載に至らなかった経緯や理由なども知りたいです。加えて、他のアドバイザーの方々のコメントも共有してもらえると勉強になりますし、新たな気づきが得られると思います。私自身は他のお二方にこのコメントを見てもらうことにも、本コメントが公開されることにもまったく異存はありません。
(2019/8/9)
2019年8月9日