実践+発信

「科学技術と社会をよく考えるためのシリアスゲーム開発と実践」(7/27)標葉 靖子 先生の講義レポート

2019.8.9

久保田 充(2019年度 選科B/社会人)

今回の講義は、モジュール3「学習の手法」の3回目、標葉 靖子 先生(東京工業大学 助教)の「科学技術と社会をよく考えるためのシリアスゲーム開発と実践」についてです。

シリアスゲームとは
シリアスゲームとは、社会の諸問題をテーマに、それを解決するためにつくられたゲームのことです。科学の分野には、科学に問うことができても、科学でだけでは答えられない問題群(科学的には解明されていないこと、科学以外の要素が絡むことなど)が存在します。このような、科学技術と社会の問題の解決の方法の1つとして、シリアスゲームを利用することは有効であるといえます。

シリアスゲーム「nocobon」の体験
「nocobon」は、標葉先生たちが開発したシリアスゲームで、科学と社会をつなぐコミュニケーション型推理ゲームです。今回、講義の中でこのカードゲームを少し体験しました。このゲームは、中学・高校生以上が対象で、科学技術と社会とを切り離して考えていて、その関わりについてほとんど考えていなかった人が、ゲームを通してその関わりに気づき、社会の中の科学技術への関心を喚起することが主な目的です。

1人が出題者兼進行役となり、他の人たちが出題者に対して質問していくことで、カードの表に書かれている「科学と社会に関わる不思議なストーリーの謎」を解き明かしていくというゲームです。解答者は「はい」か「いいえ」で答えられる質問をいくつでも質問することができます。質問をとおして質問者と出題者がやり取りをおこない、答えを当てるというものです。たとえば、出題者が『問題 「救世主」、 「ブライアンにはやらなければならないことがある。それは何?」』といいます。解答者は「やらなければいけないことは、人を救うためのものですか?」と質問します。それを受けて出題者「はい。 いい質問です。」と答えます。このようにゲームは進んでいきます。出題者への質問は「はい」か「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンということで、ゲームのでだしではやや戸惑う参加者(解答者)もいましたが、すぐにゲームに慣れ、ゲームに引き込まれていきました。

正解が出ると、出題者から、カードの裏に書いてある説明やその問題の背景についての補足説明を受けます。私は、この説明を聞き、「へーぇ」「なるほど」と思わず思ってしまいました。

「nocobon」をはじめシリアスゲームで大切なことは、事後の「振り返り」や「経験との関連づけ」をしっかりやること、つまり「楽しかった」だけでは終わらせないことです。

「ゲームデザイン」の授業の試み
標葉先生は、大学の4日間の集中講義の授業で「ゲームデザイン」の授業をおこないました。この授業は、シリアスゲームの制作プロセスを通じて、「科学技術と社会」についての学びにつなげるというものです。課題は、『「科学と社会をつなぐ」ための中高生向けシリアスゲーム(アナログ)を開発せよ!』です。4日間の授業(その間の1日は自主活動期間)の主な内容は、1)テーマ設定、2)ゲーム体験、3)ゲームコンセプト構築、4)試作品作り、5)ゲームコンペ、6)結果発表&講評となっています。

ゲーム教材制作の手順としては、
1) ゴールの設定(達成したくなるゴール設定か?)
2) ルールと活動の設定(学習ゴールにつながっている活動か?楽しいか?)
3) フィードバック設定(納得感があるか?)
4) モデル図を描く(ゲームシステムの可視化)
これらを経て、試作品作成という流れです。

このシリアスゲーム制作授業によって、受講生の科学技術と社会の間で生じている問題についての全体像の把握や活動プロセスの理解や、彼らのモチベーションの喚起や維持につながったことなどをメリットとしてあげていました。

まとめ
シリアスゲームは安全な環境で、科学技術と社会の問題を体験学習できる学びの手法です。とくに、複雑な問題が新たに顕在化したもの、全体の調査が十分進んでいない社会問題などで、ゲーミングは有用だと標葉先生はいいます。ゲームを利用することで、それぞれ役割が与えられるので、対話や議論のなかで、個人攻撃や一人の発言者に発言が偏ってしまうという状況が生まれにくくなります。ゲーミングは有用な「ヒューリスティックス」をもたらす手段になりえるといえます。一方、シリアスゲームの注意点は、制作者によるフレーミング、ゲーミングによる単純化や正確さの犠牲、単位時間当たりのインプット量が少ないこと、手段が目的化しないようにすることなどがあげられます。そのためにも、ゲーム後のリフレクションをしっかりとること、ファシリテーターが大切であるということです。

今回の講義で、私が印象に残っていることは、シリアスゲーム「nocobon」の体験での出題者(ファシリテーター)の重要性でした。今回の体験では標葉先生が出題者役をされましたが、質問に対する受け答えや反応(リアクション)が絶妙で、ファシリテーションの巧みさを私は感じました。

標葉先生ありがとうございました。