選科A 「TEAM NICS」
阿多 郁子・岩野 範昭・田代 華奈子・堀 文香・渡辺 千絵
◎企画の経緯
イベントの準備が始まった6月頃。新型コロナウイルス感染症の流行が広がる真っただ中です。そのようななかで行うサイエンスイベントについて考えたとき、グループ内のミーティングでは「コロナ禍で変化したこと」が話題に挙がりました。そこで誰もがうなずいたのは「常にマスクをするようになったこと」。加えて、マスクの着用を機に、マスクで隠れない部分だけ化粧をするようになったり、マスクで顔が隠れるのでヒゲをのばしたりするようになったことに気がつきました。
考えてみると、リモートワークや外出機会の減少などに伴って、服装や身に着けるものなどの装いの変化、そして身だしなみに対する認識の変化があったように思います。それは、今まで誰かによって決められていた「身だしなみ」からちょっとだけ自由になるもの。この数か月間、新型コロナウイルス感染症拡大によって、どうしても身のまわりのネガティブな変化に目が行きがちだったように思います。これからの身だしなみについてみなさんといっしょに考えることで、少しでもポジティブな気持ちになってもらいたいと考えました。
そこで今回は、身だしなみのひとつとして「化粧」に焦点を当てて、わたしたちがこれまで考えていた身だしなみとはなんだったのか、そして身だしなみの未来について、いっしょに考えるイベントを企画することにしました。
◎当日のようす
「身だしなみ」というトピックは、さまざまなサブテーマを持っているように思われます。今回は「身だしなみ」の世界への第一歩として、まずは関心をもってもらい、自分のこととして考えてもらう回にしたいと考えました。それを実現する情報の提示の仕方として浮かび上がってきたのが「テレビ番組」です。なかでも、朝の情報番組では、今まさに世の中で起こっていることを特集という形で取り上げ、紹介することがよくあります。この見せ方を取り入れることによって、報道番組の解説のように堅苦しくなく、身構えず楽しみながら参加してもらえるのではないかと考えました。
そこで、当日は架空の情報エンターテインメント番組『NIP!』の放送をお届けすることに。当日は生放送の設定ですが、今年度はオンラインでの開催ということもあり、事前に収録した映像の配信と、リアルタイムでの配信を組み合わせての放送です。収録パートではアナウンサー、情報キャスター、美容専門家はスタジオからの放送、コメンテーターはリモートでの参加の形をとりました。また、当日はzoomやYouTubeのアカウント名を「NIP!事務局」、「NIP!ディレクター」などにしてコメントをするなど、参加者の方にイベントの世界観に入ってもらえるようなしかけも用意しました。
番組内の特集タイトルは「コロナで変わる身だしなみ」。アナウンサーの進行の下、イベント実施にあたって事前に行ったアンケート結果を利用し、コロナ禍で生じた「身だしなみの変化」のなかでも「化粧」に焦点を当てて、身だしなみについて深堀していきます。化粧の歴史的なルーツ、そして時代ごとの変遷をたどりながら、現代の化粧は身だしなみの側面が強まっている一方で、自己表現のツールであることを紹介しました。
イベントの終盤には、これからのご自身の身だしなみのありかたについて、zoomやYouTubeのチャット機能を利用し、みなさんからアイディアをつのりました。短い時間でしたが、「不要なマナーなどはどんどんなくしたい」、「個性的なスタイルを確立したい。でも、「暗黙のルール」の目は、どうしても気になってしまう。」など、さまざまな角度からの意見が集まりました。
◎イベント終了後のアンケート結果をふまえたふりかえり
イベント終了後には、参加者のみなさんにアンケートへの回答にご協力いただきました。イベントに参加してくださった方の60%以上が、これまで身だしなみについて悩んだことが「あった」、「とてもよくあった」ようです(図1)。参加者の多くは選科Aの受講生ではあったものの、今回わたしたちがイベントに参加してもらいたいと考えていた「身だしなみについてもやもやしたことのある人」に届けることができたように思います。
形式の面では、情報番組形式によるイベントの進行は好評で、多くの方に楽しんで参加していただけたようです(図2)。内容の面では、「今回のイベントを通して、身だしなみについての新しい発見がありましたか?」という質問に対し、「そう思う」、「とてもそう思う」と回答した方は、全体の65.8%となりました(図3)。コロナ禍で身だしなみに変化が起きていることや、化粧トレンドの変遷など、わたしたちが紹介したことだけでなく、体型維持も身だしなみのひとつと考えるなど「“身だしなみ”という概念の範囲が人によって違いがあること」への気づきや、「身だしなみついてほかにも悩んでいる人がいると知れて安心した」というような、ほかの参加者の方の意見にふれることで得られた発見も多かったようです。
さらに、今回のイベントをとおして、将来チャレンジしてみたい身だしなみについてイメージすることができたかを聞いてみると、「そう思う」「とてもそう思う」と回答した人はおよそ45.7%にとどまる結果となりましたが(図4)、自由記述による回答をみると、ご自身のありたい姿について、思い思いに考えてもらうことができたように思います(表2)。
◎サイエンスイベントの企画・実施をとおして学んだこと
イベント実施にあたって、次の2つのことが重要であると感じました。
①イベントに参加した方に何を持ち帰ってもらいたいかを明確にすること
イベント終了後のアンケートでは「テイクホームメッセージが見えにくかった」という指摘をいくつかいただきました。参加者した方に持ち帰ってほしいことについては、イベント直前まで議論が続いていたように思います。主催者自身がイベントの目的やイベントをとおして伝えたいことをしっかりと言語化しておくことが、イベントを企画するうえで重要になると感じました。
②対話の場をいかにつくるか
今回は「あなたは今後自分の身だしなみをどうしていきたいですか?」という問いを参加者の方に投げかけ、アイディアをつのりました。しかし、イベント全体として情報を提示する部分が占める割合が多かったこともあり、参加してくださった方とアイディアを交わしあう時間を十分に確保できなかったことが課題として挙げられます。イベント全体の構成を工夫することはもちろん、イベント中に主催側もチャットを活用することによって、参加してくださった方や、参加者同士の交流の場をつくることができそうです。
◎オンラインイベントに挑戦して
今年度は準備から本番まですべてオンラインでの実施となり、オンラインイベントならではの難しさを感じました。例えば、対面のイベントに比べると、参加者の方に実際に何かを体験してもらうしつらえを作ることが難しかったように思います。できる限り配信にかかわるトラブルを減らすため、今回は事前に収録した映像を中心にイベントを進行しましたが、当日参加してくださった方の反応を見ながら柔軟に進行することができないもどかしさもありました。加えて、イベント当日にできることが限られているぶん、事前の準備がより重要だったように思います。
一方で、オンラインイベントのよさについても気づきがありました。例えば、対面のイベントと違って、どこからでも気軽に参加できるオンライン上での開催は、参加にあたっての物理的・心理的ハードルを下げることができるのではないかと考えました。また、チャット機能を活用したことで、参加者の方がイベント中に感じた疑問や率直な意見を集めやすかったように思います。今後、対面でのイベントが可能になった場合にも、オンラインとオフラインの組み合わせによるコミュニケーションができそうです。
そしてなにより、今回の取り組みをとおして、イベント主催者自身が離れたところにいても、オンライン上のミーティングを重ねながら1つのイベントをつくりあげられることがわかりました。これは今後の活動の励みになることだと感じています。
◎おわりに
例年は3日間の集中演習のなかでイベントを企画・実施するところを、およそ3か月かけて、オンラインでのミーティングを重ねながら進めてきました。TEAM NICSはアイディアの宝庫。ミーティング初期からさまざまなアイディアが飛び交っていました。1つのトピックに対しても、メンバーそれぞれの立場から意見を交わしたことで、たくさんの発見を得ることができたのも今回の収穫のひとつです。アイディアにあふれる分、イベントテーマの決定までに時間がかかりましたが、深く深く考えながらイベントをつくりあげることができたように思います。
今回の経験と学びを、個人の活動にとどまらず、TEAM NICSとしての活動にもつなげていきたいです。
本記事は、2020年8月30日(日)に実施した2020年 選科Aオンラインサイエンスイベント「これから/どこから」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、対面でのサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、企画から実施まですべてオンラインでの開催となりました。19人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。以下のリンクより、他の活動報告もぜひご覧ください。
・選科A活動報告「サイエンス総選挙2020 〜もしも定額研究投資金が給付されたら〜」 → こちら
・選科A活動報告「コロナで変わる身だしなみ ~それはマスクから始まった~」 → この記事
・選科A活動報告「納豆と、旅する 〜新たな時代に向き合う世界の果て〜」 → こちら
・選科A活動報告「世界から「におい」が消えたなら~「におい」とこの未来(さき)を考える~」→こちら