実践+発信

「Digital story-telling and video briefs」(1/30) バレットブレンダン先生講義レポート

2021.3.19

安達 寛子(2020年度選科/学生)

大阪大学COデザインセンター特任教授、バレット・ブレンダン先生による講義「Digital story-telling and video briefs」について報告します。Video briefsとは短い映像作品のこと。バレット先生は、映像を用いた科学技術コミュニケーションを行っているのです。

今年度唯一、英語での講義となった今回。緊張する私たち受講生に対し、質問は日本語でもいいと言ってくださり、終始、聞き取りやすい表現で話してくれました。

「この人は効果的なコミュニケーションをしていると言えるでしょうか?」

冒頭、そんな問いかけと共に示されたのは、私たちには馴染み深い人物でした。白衣にフグの帽子を被り、魚の絵を描いている男性。そう、さかなクンです。

「魚への興味関心を高める上での貢献が素晴らしい」
「食べ方など幅広い切り口を発信しているのがいい」
「面白いけれど、専門的な知識を十分に広められているだろうか?」

受講生から様々な意見が出る中、バレット先生は「さかなクンは科学技術コミュニケーターとして非常に良いロールモデルだ」と述べられました。これはどういうことでしょうか。

アーティストと伝える科学技術コミュニケーション

多くの科学者は市民とのコミュニケーションに問題を抱えているそうです。科学者によるコミュニケーションは、事実関係や科学的な正確性にこだわるばかりで、一見すると面白味に欠け、世間一般に興味をもってもらえないからです。

それを助けるはずの科学技術コミュニケーターもまた、問題を抱えているとバレット先生は指摘します。科学と市民の間に立つ存在であるべきコミュニケーターは、その多くが実際には科学者の側に寄りすぎてしまっているからです。これでは、ただの「コミュニケーションをしている科学者」になってしまい、「科学者でも市民でもない第三者」としての差別化ができていません。

このような困難を乗り越えるために、科学者や科学技術コミュニケーターは、より魅力のあるコミュニケーションを模索しなければなりません。そこで有効な手法として挙げられたのが、自身がアーティストになること、またはアーティストと連携することです。アーティストのもつ強みは、人間性を前面に出し、人々の興味関心を引き出すことです。アートの手法を取り入れて科学的な問題を伝えることで、より多くの人に届くコミュニケーションが可能になるといいます。

“Colorful character” “Talented artist”

バレット先生自身がさかなクンを評した言葉です。彼は豊富な専門知識を持つだけでなく、自分自身のキャラクター性や、正確かつ魅力的なイラストを生かし、幅広い人に届くコミュニケーションを行っています。これこそ、さかなクンがコミュニケーターとして理想的な姿のひとつとして紹介された理由でした。

物語で伝える科学技術コミュニケーション

物事を語る上で、学術論文のような正確性は大切ですが、それだけがコミュニケーションの全てではありません。具体的なエピソードを交え、物語として伝えることにも多くの利点があるといいます。

両者の良い要素を兼ね備えることで、コミュニケーションの質を向上させることができるはずだーバレット先生はこのように考え、その実践として、これまでに多くのドキュメンタリー映像を製作してきました。中には「Satoumi(里海)」「Living in Fukushima(福島に生きる)」など、日本を舞台にしたものもあります。いずれも映像作品としての魅力や見た目のインパクトをもちながら、科学的なテーマについて堀り下げる内容となっています。

例えば「Book of Seasons in Kanazawa(金沢の四季)」は、生物多様性をテーマとしていますが、その切り口は”Kimono”。着物に描かれた風景や生き物の姿をきっかけに、金沢の自然について考えてもらおうという試みです。

※バレット先生の作品は、こちらのサイトからご覧いただけます。

既存の枠にとらわれずに

講義の最後に、バレット先生から「コミュニケーションに様々な手段があることを覚えていてほしい」というメッセージがありました。

CoSTEPで科学技術コミュニケーションを学ぶ中で、私たちはたくさんの手法や事例に触れてきました。しかし、それらはあくまで例にすぎず、絶対的な正解などはありません。

「科学者がアーティストにもなるべきか、それとも科学者とアーティストが協力するべきか」と私が質問すると、バレット先生は「どちらでもいい」と答えてくれました。アートに繋がりそうな研究をしているなら、科学者自身がアートの手法を用いてもいい。機会と相手に恵まれているなら、アーティストと一緒にゼロから何かを作りあげてもいい。必要なのは、対象を分析し、よりよい伝え方を模索することだといいます。

CoSTEPでの学びも、3月13日の修了式でゴールを迎えました。これからの私たちは、科学技術コミュニケーションを学ぶ立場から、主体的に実践する立場となります。柔軟な発想を大切にして、自分なりの道を切り開いていきたいと思います。

バレット先生、ありがとうございました。