実践+発信

選科A活動報告「TAKE OUT & EAT ENERGY 満腹にならない私たち」

2021.9.30

選科A 弁当屋「ちきゅう」
有村直子、片田はるか、菊地有由美、向井真弓、森本智郎 & 梶井宏樹

「エネルギー」がテーマとなった今年の選科集中演習A。私たちはエネルギーの観点から食料問題を見つめ直す、「TAKE OUT & EAT ENERGY〜満腹にならないわたしたち〜」という20分間の対話型イベントをZoomで実施しました。本報告では、イベントの企画背景、当日の内容、アンケート結果、そしてイベントを通して私たちが学んだことについてお伝えします。

背景・意図

「身近なものごとからエネルギーについて考える機会にしたい」「他の人の考え方や意見を知って、改めて考える機会にしたい」―この2つの想いが、企画当初からの私たちの軸でした。話し合いを重ねに重ね、たどり着いた題材は「食」。私たちは活動するためのエネルギーを食事から得ています。しかし、太陽光エネルギーに頼った産業革命以前の食料生産とは異なり、現代のそれには化石燃料由来の莫大なエネルギーが投じられています。「食」は誰にとっても身近で、人それぞれ嗜好やこだわりが異なると同時に、エネルギー問題とも密接に関わっているという点で、今回のイベントに適切と考えたのです。

そこで、人類は、食糧だけでなく、その生産に使用される化石燃料といったエネルギーまでも地球から「Take Out」して「Eat」している存在と見立てたストーリー性のあるイベントを作ることにしました。

舞台は「ちきゅう」という店名の弁当屋。まずは主人役を務める有村から、「人類がこのままの食糧生産を続けると、やがて人類が生存できない地球環境になってしまう」「しかし何の工夫もないままエネルギーの消費を抑えた生産に切り替えると、人口を賄うことができない」という人類が抱えるジレンマとその解決に取り組む弁当屋「ちきゅう」のミッションを共有し、今回新たに開発した4種類の未来の弁当に対する意見が欲しいことを参加者に伝えました。

(このグラフは食料が安定的に増産できるようになると人口が増加してきた歴史を示しています。この約200年間で人口が急激に増加し、現在の人口は78億人を超えています。この人口を賄うための食料生産が自然環境に強い負荷をかけています。)
(弁当屋「ちきゅう」が開発中の新商品4種。①地産地消弁当:エネルギーとフードロスの削減に期待。地域によって食材が偏ったり不足したりする可能性あり。②培養肉弁当:家畜を育てるエネルギーの削減に期待。食すことに抵抗を感じる方も。③環境負荷の低減に期待。日本では抵抗がある人も多いかも。④今のまま弁当:現在のままの弁当。地球の将来のために、少しずつ中身が少なくなるかも。)

4つの提案を受けた参加者は「一番食べたくない弁当」を30秒で選びました。その後4〜6人のグループに     分かれ、選んだ弁当とその理由について5分間話し合いました。あえて「食べたくない」としているの     は、その理由を考えることで、参加者それぞれが食に対する嗜好で「譲れない」点に改めて向き合えるような機会になればという狙いからです。グループでは、異なる意見をもった参加者同士でも、それぞれのお弁当の長所・短所を話し合いました。

話し合いから全体へ戻ってきた参加者に、改めて「一番食べたくないお弁当」に投票してもらい、全体での意見の集約と可視化を行いました。

(4つの弁当の他に「選択肢全部」と「提示した中にはない」も選択肢として追加しました。投票の結果、昆虫食弁当を避けたい意見が参加者全体の59%と最も多くなりました。)

イベントの最後に、弁当屋「ちきゅう」からのメッセージとして「エネルギーの消費を抑えて地球環境を守ることと、私たちが豊かな食生活を続けることの間にある葛藤を感じて持ちかえってもらえると嬉しい」と伝えました。「またのご来店をお待ちしております。」という締めの挨拶には、これから食事の時には日々の食料を地球から得ていることを意識してほしいというメッセージを込めました。

イベントの結果

イベント終了後、Google Form にてアンケートへの協力をお願いしたところ、34件の回答を得ました。私たちが注目したいくつかの結果を紹介します。まずは、参加者のエネルギーに対する意識変容について。私たちがイベントに込めた想いの一つは、「身近なものごとからエネルギーについて考える機会にしたい」でした。以下3つの設問に関する結果を示します。

  1.  エネルギー問題が普段の生活と密着している身近な課題だということをどれくらい意識していましたか?(全員)
  2. イベントに参加した後、エネルギー問題が普段の生活と密着している課題だということを意識するようになりましたか?((1)で意識していない〜どちらでもないを選択した人)
  3. イベントのどこで、意識が変わったと思いますか? ((2)でどちらでもない~意識するようになったを選択した人)
(エネルギーについての意識変容を問うアンケート結果。(1), (2)では質問に対して、参加者は5段階の選択肢の中から一つを選んで回答する方式を採りました。(3) では「話題提供」、「グループワーク」、「その他」の中から一つを選んで回答する方式を採りました。)

アンケート結果から、私たちのサイエンス・イベントは参加者の意識変容を促すことができました。次に、参加者がグループに別れて行った意見交換について。私たちがイベントに込めたもう一つの想いとして、「他の人の考え方や意見を知って、改めて考える機会にしたい」がありました。

(グループワークの満足度を問うアンケート結果。「不満」から「満足」まで5段階の選択肢の中から一つを回答する方式を採りました。)

回答者の中に強く不満を持った人はいませんでした。しかし「満足」に寄った回答と「どちらでもない」の回答が約44%とほぼ同数でした。ここから、多くの参加者が満足できる機会だったとは言い難いと考えられます。その理由として、話し合いの進め方を参加者任せにしてしまったことがあると考えています。

反省・学んだこと

良かったこと

オンラインのみでの班作業という限られた状況で、「エネルギー」と「食」とを関連付けたイベントをなんとか実現することができました。十分に科学的な裏付けがとれない生半可な準備では、サイエンスイベントを実施したとしても、伝えたいことも伝わらないことをメンバー全員が自覚できました。オンラインでのやりとりは時に深夜にも及びましたが、その分綿密なコミュニケーションをとることができました。

反省点と今後の課題

「食」という大きなテーマであったがゆえに、     「食糧     問題」の何を扱うのかについて     班内でも二転三転しました。他の班の受講生や教員から     指摘をされる度に方向性の再検討を行っ     たため、具体的なイベント内容を検討する時間が足りませんでした。     今後は、スケジュール管理を厳格に行い、区切りをつけるタイミングを見逃さないようにしようと思いました。

また、「対話による価値観の相互理解」を目指し、プログラムデザイン上で工夫したものの上手くいかない部分もありました。理由の一つは、参加者が話題提供で得た知識を「自分ごと」として考えるために咀嚼する時間 、「自分ごと」として考える時間、考えることで自覚した自分の価値観を他者と語って共有し、理解をしようとする時間 、このどれもが足りなかったからです。また、多くのグループで話し合いの進め方を参加者任せにしてしまう状況で、参加者の混乱を招き、対話の機会を活かすことができなかったことも大きな原因です。グループの数を減らして、それぞれにスタッフが進行役としてつくと改善できると考えます。

最後に、サイエンス・イベントにご参加いただいた皆様ありがとうございました。チャットやアンケートでいただいたコメントは励みになるものばかりです。この経験を糧に、残り半年間のCoSTEPでの学びをより良いものにしていきます!

本記事は、2021年8月29日(日)に実施した2021年 選科Aオンラインサイエンスイベント「energy」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、対面でのサイエンスイベントをいちから作り上げる4日間の集中演習を行っています。今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、企画から実施まですべてオンラインでの開催となりました。20人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。以下のリンクより、他の活動報告もぜひご覧ください。

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