丸山 遥香(2022年度選科A/学生)
CoSTEPの朴 炫貞先生に、朴先生ご自身や他のアーティストの事例を交えながら、現代アートとは何か、現代アートとどのように付き合っていくかをご講義いただきました。
まず、講義室にいる人たちに、アートに関する4つの質問をして手を挙げてもらいました。質問は「アート好きです」、「アートちょっとわかります」、「アート知りたいです」、「アート難しいです」。ほとんどの人が、アートが知りたいし好きだけれど難しいと思っているようでした。アート作品の見方は、正解があるわけではなく個人それぞれに答えがある、正解を求めるのではなく自分の答えを素直に出すことと朴先生は言います。
災難の時代
科学技術が発展した2022年でも、感染症の拡大や事故などたくさんの災難が起きています。
今の時代に科学技術コミュニケーションを学ぶ我々が現代アートとどう付き合っていくか、付き合ったらどんな可能性が広がるかを考えていきます。
現代アートとは?
これまでの歴史の中で様々なアートがありますが、そもそも現代アートとはどのようなもので、どのような特徴があるのでしょうか。現代アートは、アートで何ができるかを自分たちで問いかけるジャンルです。今の世界を反映し、それ自体が題材になるので、現代アートと今の世界は切り離せないものです。技術で様々なことが可能になった今、色々なコンセプトを考え、人間ができる色々な表現を目指すため、多様なメディアを用いるという特徴があります。最近は鑑賞者が感想をSNSに投稿し共有するなど、多様な解釈や流れがあります。
多様な解釈という例で、「線より」という作品に対する朴先生の解釈の変化を話していただきました。「線より」は筆の絵の具がなくなるまで引かれた線が規則的に並んでいるという作品です。ある災難を経験する前と後では、その作品の見え方が違ったそうです。作品を見て、自分はどのように見えるかを大事にして、自分好みのところから広げていくと、解釈が深まり自分の世界が広がると朴先生は言います。
様々な現代アートの事例について、写真や映像を用いて紹介されました。その中から私の印象に残った事例について抜粋します。
1. ヴォルフガング・ライブ《ヘーゼルナッツの花粉》
本講義の1週間前に美術館/科学館選択実習が行われました。そこで訪れた「地球のまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング」に展示されていた作品です。4年間で採取したヘーゼルナッツやタンポポが大きな台に敷き詰められています。作品を遠くから見たり近くから見たり実際にその場で見ることで、花粉の量や匂いを感じることができます。
2. ヘザー・デューイ=ハグボーグ《Stanger Visions, Dublin: Sample 3》
C Gのような立体的な顔が壁に並んでいます。この顔は、ダブリンの街に捨てられた吸殻をゲノム解析して、その情報をもとにモーフィングされたものです。科学技術でこのようなことを行なってよいのか、違う場面でどのように応用できるかを考えるような問いかけをしています。
3. オラファー・エリアソン《THE WEATHER PROJECT》
ロンドンの美術館の吹き抜けの空間に太陽のような明かりを設置した作品で、室内で太陽を浴びる体験ができます。これに関連した本来の活動は、太陽発電できる小さな明かりを購入することで、エネルギー不足などで勉強することができないアフリカの子供の教育に協力することができるというものです。このように作品を鑑賞した後の具体的な行動を提示するアートもあります。
一緒につくるアート
「アノオンシツ」
北大構内にある古い温室で朴先生が行っているアートプロジェクトです。CoSTEP、北方生物圏フィールド科学センターをはじめとした北大の様々な組織、クリエイター、ギャラリー、市民といった多様なステークホルダーが関わっています。“温室”ということで、地域のアーティストとともに自然との付き合い方をアートで表現するということを軸に活動しています。アノオンシツで朴先生が行なってきたプロジェクトについてお話ししていただきました。
「苔の息」
“イキ”は日本語で“息”、韓国語で“苔”を意味します。苔が息することを可視化するというアイディアをもとに、苫小牧研究林から持ってきた苔、音がする石のような焼き物を展示し、鑑賞者の息と苔の息を可視化しています。
「山々と」
伐採された木から作られた、北海道の山をイメージした木彫りの山をガラスの上に展示することで、空と地を一緒に見ることができます。見る視点を変えることで、山を見下ろすという体験を追体験することができます。
「ハシノトキ」、「アノトキ」
アノオンシツに通じる橋が撤去されることになり、橋の撤去の様子やその周りの植物たちをドキュメンテーションしたプロジェクトです。橋に関わる物や人々の記憶を、映像に残したりオンラインや札幌市内で展示しました。しかしこれらのアート作品は、北大の多くの人には十分に届いていませんでした。多くの人にアートプロジェクトを楽しんでもらうために、朴先生は地元のコーヒー店とともに、橋の撤去に伴い伐採された木々を使った燻製コーヒー「アノトキ」を開発しました。飲んだ人がコーヒーを楽しむ、プロジェクトのWebページでその背景を知ることができます。コーヒーのブレンドを開発する、その提案をするということもアートプロジェクトになります。
「札幌の木、北海道の椅子展」
アノオンシツの裏にあった大きなイチョウとアカナラの木で、北海道の作家さんたちが椅子を作り、それをギャラリーで展示しました。地元のクリエイターの方々は、北大や研究者に興味があるそうですが、繋がる道がありませんでした。クリエイターと研究者を朴先生が繋ぎ、椅子を作ったクリエイターと森に関わる研究者の対談を映像化しYouTubeで公開しています。プロジェクトには、現場で働く人、クリエイター、研究者といった多くの人々が関わりました。学内や現場ではプロジェクトへの理解があり、様々なサポートがあったそうです。北大ではアートに対する苦手意識がある人が多いようですが、朴先生が北大をフィールドに活動することでで、北大の人々とアートが様々な形で絡んでいくことを考えていきたいといいます。
科学技術コミュニケーションとアート
アートプロジェクトを行うためには、多様な立場の人々のことを理解することや想像することが重要です。“人に、よりそう”、“物語に、よりそう”ようなアートプロジェクトと関わることは、“解像度高く、世界を見る”ことに繋がっていくと朴先生は言います。アート作品は一度見ると、一生付き合っていくことになります。鑑賞者が色々な経験をしたり歳をとることで作品に対する解釈は変わり、またアーティストも変化します。コンテンポラリーアートは、今一緒に経験していることを他の作家はどう考えているかを具体的に見ることができます。
まとめ
アートとは、一個小さな点を打つことであると朴先生は言います。一個点を自分の心にどう打つか、他の人が打った点をどのようにみるかを考えることで、アートを“誰が”“どこに”“どのように”インストールしていくことの“理由”がわかるのではないでしょうか。
現代アートは難しいと感じていましたが、講義を通して作品の変化や解釈の変化を楽しむことができそうだと思いました。これから科学技術コミュニケーションの視点からアート作品を見て、コミュニケーションの場を作っていきたいです。