11月19日(土)に開催された第60回サイエンス・カフェ札幌「おしくらさいぼう、押されてなくなれ!」では、ご来場のみなさまから、たくさんの質問をいただきました。
(カフェ当日のレポートはこちら:http://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/costep/contents/article/530/)
カフェの時間内では、時間の関係からお答えできなかった質問について、藤田さんに回答していただきました。カフェにご来場いただきました方には、当日の藤田さんのお話を振り返りながら、ご覧いただければと思います。
なお、カフェの中でお答えしたご質問や、内容が重複するご質問については、掲載されていない場合があります。ご了承ください。
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Q: 悪性度の高いがんとは、通常のがん細胞と何が違うのですか?
A: 増殖する速度や転移する能力が高いがん細胞を、一般に悪性度が高いといいます。
Q: 遺伝子にキズ(変異)がつく原因(5つぐらい)
A: (何かテストみたいやなぁ)活性化酸素、タバコ、ある種のウイルスなどの感染、紫外線、アスベスト
Q: がん細胞と正常細胞との社会性の問題は、確率的事象でなく全て100%の現象として説明できるのですか?
A: 非常にいい質問ですね。今日はシンプルに話をさせていただきましたが、基本的には確率的事象であり100%な現象ではありません。
Q: 正常細胞とがん細胞の境界での現象を利用するとしたら、大きくなったがんでは、がんの中心の方の細胞には直接刺激を与えられないということですか?中心と外からの攻撃ができたら良さそう…。
A: とてもいい視点ですね。現在の私たちの研究では、正常細胞との境界からジワジワと退治していくことになります。確かに内外から攻撃できればよりいいですネ。
Q: 正常細胞はがん細胞の何を認識しているのですか?細胞表面の分子?
A: 現在のところ、認識機構については全くわかっておりません。細胞表面の分子の可能性が高いと考えています。
Q: がん細胞が正常細胞よりかたいのは、正常細胞からの攻撃から身を守るためと考えられますか?
A: うーむ。これは面白い考え方ですね。一般に、がん細胞は正常細胞よりも固くなることが多いのですが、その意義についてはよくわかっていません。
Q: 正常細胞が弱まっているとはどういうことですか?細胞と細胞の間の接着力が弱まると説明されたのですが。
A: 慢性な感染や炎症が起こると、がんになる確率が高くなることがあります。そのような際には、細胞同士が接着する力が弱くなることが多いことが知られています。
Q: マージャン変異のムービーでは、4つの細胞のうち3つのものしかとび出していなかったのですが、残りの1つのがん細胞はどうなったのですか?
A: 残りの1つの細胞には、ムービーを観察する時間内には何も起こりませんでした。基本的に、正常細胞とがん細胞の間で起こる現象は確率的なもので100%起こるものではないようです。
Q: 正常細胞の中のがん細胞が押し出されるムービーの正常細胞は一層なのでしょうか?管腔側に排除されるというのはどうわかったのですか?多層だったなら、表面の細胞しか見えていないのかと…。
A: 実験に用いた細胞は、腎臓の尿細管由来の上皮細胞で一層の細胞膜をつくります。この細胞層は極性と呼ばれる方向性をもっており、上側が管腔側になることが分かっています。
Q: 絞めつけは、がん細胞をはじき出すため、ということは理解できるのですが、ツンツンにはどういったはたらきがあるのでしょうか?
A: いい質問ですね。おそらくツンツンすると、がん細胞はいやがって細胞層からぬけるのかな。現在“ツンツン”のメカニズムをくわしく調べているところです。
Q: 正常細胞とがん細胞で、細胞小器官の有無などの違いはありますか?がん細胞というと、無限増殖というイメージしかなく、正常細胞との構造の違いは分からないのですが。
A: いい質問ですね。がん細胞共通の細胞内小器官(オルガネラ)の違いはないと思います。が、最近の研究で、がん細胞に接する正常細胞内に多くの小胞が産生されることがわかってきました。がん細胞と正常細胞との構造の違いについても形態学的な解析を続けています。
Q: 糖尿病とがんは、因果関係はあるのでしょうか?
A: わたしの知るところでは、あまりはっきりとした因果関係は明らかにされていないと思います。
Q: 良性腫瘍って、どんなものですか?今日のお話で、元気のない細胞かなと思いました。がんを押し出す力は弱そうです。
A: 良性腫瘍とはポリープのようなもので、異常な増殖はするが転移しないものを指します。
Q: 姉2人が、がん末期と言われて…。長女→今、抗がん剤治療中。次女→化学療法→リンパ切除Ope→放射線治療。経過をみながら現在に至ります。転移が必ず出現するのなら、転移が少しでもおそくなる治療(食事療法?)はないのでしょうか?がん細胞が出てくるのを待つ感じがあり…どうにか再発しない方法、生活はないのでしょうか?
A: 残念ながら私たちの研究分野は、まだ研究が緒についた新しい分野です。実際に研究成果が創薬に結びつくには数年かかるものと思われます。ただ、現在世界中で研究者が必死に転移を防ぐなどの新しい治療法を開発しようと日夜研究に励んでいます。新しい治療法が近い将来に生まれるという希望をもっていただければと願います。
Q: 「おしくら細胞」は、がんの予防や治療の他に、どんなことに役立つと思いますか?是非お聞きしたいです。
A: がん以外にも感染症などで正常な細胞と異常細胞が隣接する状況はありますので、他の病気へと応用できる可能性はあります。
Q: 先生は創薬の方に力を入れているように思います。食事由来の物質や(食生活によって)例えば機能性物質による食事療法に関してはどう思いますか?(例えば、おしくら細胞を活性化するなど。)可能性はあると思いますか?
A: これはたいへんいいポイントですね。低分子化合物だけではなく、日頃の食事療法などに使える天然物についても、食品会社などとの共同研究でスクリーニングを行いたいと思っています。
Q: 母が5月に肺がんとわかりました。8月に1回目の抗がん剤治療を受け効果がありましたが、その後、認知症のような状態となりました。今は薬を飲むことも拒否し、何も治療ができません。医師は原因不明と言ってますが、がんに対する抗体が患部と遠くはなれた場所に作用すると神経症状・精神症状を引きおこすこともあると、ある論文に書いてありました。脳の検査には全く異常がなく、精神科に行くように言われましたが、やはりはっきりしたことはわかりません。9月にステロイドの副作用と思われる強い症状が出てから急に脳の機能が落ちていきました。少ない情報ではありますが、以上のことから考えられること、またはその治療方法について知りたいと思います。お願いします。それから、いくつかの大学で研究されているようですが、紅豆杉についての情報があれば教えて下さい。
A: たいへん難しく厳しい状況ですね。申し訳ないのですが、脳の状況とがんとの因果関係がわからず、うかつなことを申し上げることはできないと感じました。脳への転移など器質的な異常がなければ、精神科を受診するのが一般的な考察かとは思います。たいへんだとは思いますが、御母堂をしっかり支えてあげて下さい。
Q: ヤスさんの研究に感銘をうけて、同じアプローチで研究を始めた人(グループ)はありますか?
A: 世界のいくつかのグループが同様研究を始めたという情報があります。負けないように頑張ります。
Q: 弱っている正常細胞を元気にさせる方法はないのでしょうか?
A: いいポイントです。まず正常細胞がどのようにがん細胞を認識して攻撃しているかを明らかにして、弱っている正常細胞を元気にさせる方法をさぐっていきたいと思います。
Q: がんはすごく一般的な現象ですが、どんな生物まで見つかってますか?クラゲ?ムシ?カニ?
A: ショウジョウバエでは見つかってます。魚ではほとんど起こらないと言われてます。カニやクラゲは、ちょっと知らないなぁ。
Q: 今回の治療でがん制圧できるには、周りに正常細胞が何%必要なのでしょうか?
A: 何%というのは難しいですが、がん細胞によっては、かなりの細胞周囲が正常細胞に囲まれていた方が、細胞死などが起こりやすいようです。
Q: がん細胞が増殖するメカニズムを破壊する/抑圧する研究は進んでいるのですか?
A: 私の研究室ではありませんが、世界の他の研究室にてそのような研究は行われています。
Q: 腸や腎以外の臓器での影響はありますか?
A: まだ全ての臓器での影響を見ることはできていません。今後の課題ですね。
Q: 藤田先生は大変お元気そうですが、(本日の講演で、元気な細胞を持っているとがんにならないのかなと思いました。)先生は、どの様な健康法をされていますか?どの様な健康法(サプリメントetc.)が、がん予防に、(細胞を元気に保つ…のに、)有効と思いますか?
A: 私は、空手とバドミントンをしています。がんの予防にいい健康法は、まだ特に明らかにされていないですが、やはり煙草などの発がん物質との接触を避け、睡眠を充分にとって、節制のとれた生活を送ることが大切だと思います。
Q: おしくらまんじゅうをする正常細胞に対し、がん細胞は何らかの抵抗又は攻撃はありませんか?
A: おそらくあると思われますが、そのメカニズムに関してはまだくわしくはわかっていません。
Q: 最初からすべての細胞ががん細胞になっているのでしょうか?もし違うのであれば、正常の細胞に囲まれても押し出しに失敗または気づかないうちにすべての細胞ががん細胞になっているということですか?
A: これはいい質問ですね。正常細胞の状態があまりよくなかったり、がん細胞に強い変異が起こったときに、がん細胞が生き残るのではないかと考えています。実際に体内でどのようになっているのかを、今後調べていきたいと考えています。
Q: マージャン変異細胞の実験でがん細胞が死んだ現象が見られたが、その細胞死は、necrosisですか?apoptosisですか?
A:apoptosisです。
Q: がん細胞のみを培養したときは排除や細胞死などの現象は起きないということでしたが、ラスが変異して生じたがん細胞の集団中にラスは正常でマージャンが変異したがん細胞が存在した場合など、別の種類のがん細胞の間でも社会性による排除や細胞死などは起こらないのですか?
A: いい質問ですネ。がん細胞同士の攻防についても、現在研究しているところです。
Q: 正常細胞からはじき出されたがん細胞は、大腸では…、じん臓では…、ある方向に行く。どの方向へ行きますか?(聞きのがしてしまいまして…)
A: 大腸では便が流れる、腎臓では尿が流れる方向へはじき出されます。体外への排出と考えていただいていいと思います。
Q: 逆に、がん細胞が周りの正常細胞を弱らせるような現象は見られないのでしょうか?
A: ショウジョウバエでは、がん細胞が周囲の正常細胞を殺すという現象は報告されています。哺乳類で同様の現象が起こっているのかはまだ分かっていません。
Q: がん細胞圧倒的多数のケースでは効果がありますか?
A: 現在のところわかりません。正常細胞の攻撃力を最大限に高めてやれば、効果はあるのではないかと思います。