実践+発信

「オープンエデュケーション教育の未来」/81 飯吉透先生の講義レポート

2012.9.4

8月1日は、「オープンエデュケーションと教育の未来」と題して、京都大学高等教育研究開発推進センター教授の飯吉透先生の講義が行われました。オープンエデュケーションとは、インターネットを活用した、無料もしくは低コストで利用できる学習サービスの進化と普及の世界的な潮流を意味する言葉です。

「情熱増幅装置」としてのオープンエデュケーション
はじめに、MITの名物教授Walter H. G. Lewin氏による“サーカスのように夢中になれる講義”「基礎物理学」が紹介されました。飯吉先生は、これを「一人の教育者の情熱と狂気」と呼びました。同様に、個人の情熱から生まれた事例として、KHAN ACADEMYが紹介されました。これは、アメリカ人のヘッジファンド・アナリストSalman Khan氏が、遠隔地に住む親戚の子どもに勉強を教えるために作成し、インターネット上に公開した教材のアーカイブです。はじめは一人のために作られた教材でしたが、これが評判を呼び、やがては世界中の学習者から利用されるようになり、とうとうBill Gates財団から多額の寄付を受けるまでに至ったのです。
このように教育改革は、何か整然としたソロバン勘定に基づいた計画によって推進されるものではなく、強烈な個性を持った一人一人の情熱によって突き動かされていくものだということが、飯吉先生が私たちに伝えようとしたメッセージでした。オープンエデュケーションは、そのような場合に「情熱増幅装置」として機能するのです。
「格差超越装置」としてのオープンエデュケーション
また、オープンエデュケーションは、インターネットに接続されたPCさえ持っていれば、世界中どこでも無料で質の高い学習機会を得ることができるので、特に貧困層や途上国の子どもたちにとって、「格差超越装置」としての役割を果たします。これからの世界の教育が大きく変わっていく可能性を感じさせます。
オープンエデュケーションの三つの要素
オープンエデュケーションは、「オープンテクノロジー」「オープンコンテンツ」「オープンナレッジ」の三つの要素から構成されます。

「オープンテクノロジー」とは、ウェブ上での様々な情報共有や協同作業のためのプラットフォームを提供するウェブサービスを指します。このようなウェブサービスの出現が、オープンエデュケーションを可能にする環境をつくりだしたのです。しかしもちろん、テクノロジーだけではオープンエデュケーションは成り立ちません。
次に「オープンコンテンツ」とは、一定のルールに従えば、誰でも自由に再利用できる教育用コンテンツのことを指します。世界中の教員が制作した優れた教育用コンテンツをインターネット上に蓄積し、共有、再利用することで、教育の質が飛躍的に向上する可能性があります。これには、単に静的な学習用コンテンツだけではなく、人工知能の知見を応用して、学習者の進度に応じて問題を出したり、回答パターンによって教授法を変えたりすることができるようなシステムも含まれています。
最後に「オープンナレッジ」とは、上記のオープンコンテンツを、どのように教育や学習に使えばよいのかについての経験的知識のことです。オープンコンテンツの活用方法についての知見を共有し、互いに改善し合っていくことによって初めて、オープンエデュケーションに血肉が与えられるのです。オープンナレッジの醸成を支援するシステムの例として、カーネギー財団知識メディア研究所が開発した、KEEP Toolkitが紹介されました。
これらの三つの要素を組み合わせることによって、教育的知識の「生成―共有―利用」を循環させることが、オープンエデュケーションの理想的なありかたなのです。