実践+発信

「科学技術コミュニケーションは、何をめざすのか」512 杉山滋郎先生の講義レポート

2013.5.18

 2013年度開講プログラム2日目は、杉山滋郎先生(CoSTEP代表・理学研究院教授)による講義からスタートしました。本科だけでなく全国から選科の受講生も集まり、前列から席が埋まっていく受講生の積極性にベテランの杉山先生も気圧されている様子です。昨日の平田オリザ先生の講演が玉ねぎの話で終わったことを受け、杉山先生のスライドは米粒から始まりました。

◆科学技術コミュニケーションと科学コミュニケーション

この二つの言葉の違いは何でしょうか。CoSTEPが“科学技術コミュニケーション”という表現を使う理由には、基礎科学だけでなく、応用的な工学や、さらには医学、社会科学、人文科学等も含め、幅広い分野について考えようという意図が込められているそうです。

◆理科離れというけれど

PISAの調査によると、日本人は理科に対する興味が低いと報告されています。とはいえ、スマートフォンの急速な普及、科学技術に関わるニュースへの注目、健康に関わる情報の氾濫などは、科学への関心の高さを物語るものではないか、と杉山先生は言います。

コミュニケーション能力が求められる背景には、時代の変化に伴いコンテクストのズレが顕在化してきたことがある、と平田先生は前日の講演で語りました。それをうけて杉山先生は「科学技術を楽しく、わかりやすく」といった科学技術コミュニケーション能力が求められるなかにもコンテクストのずれがあるのではないか(理科を教える人と教わる人との間のズレ)と問題提起しました。

 

一昔前の自動車運転免許試験の設問には、今のユーザーには必要のない知識を問うものがたくさんあります。科学技術の進歩によって必要な知識が変化してきたのです。それにともない、理科教育の変化も必要だと言います。

また、丙午の迷信は、教育水準が高まって科学知識が普及したとしても、迷信を信じる人が減るとは限らず、むしろ増える場合もあることを示しています。科学知識を普及させることが直ちに、社会の中における科学技術の諸問題の解決につながるわけではない、と杉山先生は指摘しました。

◆「ただちに害のあるものではありません。」

原発事故後に枝野官房長官はこのような言い回しの発言で非難を受けました。一方で、九州や中国地方の自治体がPM2.5の環境基準をめぐって同様の言い回しをしていますが、特に違和感が表明されることはありません。また、原発事故とボーイング787事故について、どちらも根本的な原因は不明のままですが、後者は運航再開に向けて動き出しており、人々に前者とは異なった受けとめられ方をされているようです。このような違いの背景には何があるのか、そこには「信頼」が関わっているのではないか、そして専門家やシステムへの信頼を(再)構築していくことも、科学技術コミュニケーションの目指すべきことではないか、と杉山先生は指摘しました。

最近話題になっているニュースを例に、わかりやすく進められた授業。最後は、おいしそうに炊けた白いご飯のスライドで、昼休みの合図です。杉山先生、ありがとうございました。一年間よろしくお願いします。

本間真佐人(2013年度本科・北海道大学理学院修士1年)