科学技術コミュニケーターにとって、接することの多いデータ。今回の講義では、データを収集・分析・評価手法について、実例を交えながら解説してくださいました。
データとは何か
まず、「データとは、自らの判断・主張を支える情報であり、客観的な材料である」と定義されました。データには、大きく分けて、「量的データ」と「質的データ」があります。
たとえばマラソンでデータを取るとします。走った時間や、順位、男女といったデータは、量的データであり、統計解析に利用できます。一方、談話のテキストデータなどは、質的データと呼ばれ、事例研究に利用できます。
得られた「生データ」をすべて提示しても理解できないので、意味はありません。だからこそ、目的によってデータの種類、分析方法や見せ方を変える必要があるのです。
次に、研究者が科学技術コミュニケーションをどのように捉えているか、「量的データ」を示しながら解説が進みます。
量的データの調査例
「科学技術コミュニケーション」については、実にさまざまな意見があります。2013年に研究者に対してアンケート調査を実施しました。これは、ReadD&Researchmapにメールアドレスを登録している研究者(122,164人)にウェブサイト上にて84項目を回答してもらうというものでした(回収率7.3%)。得られたデータは、因子分析、クラスタ分析を行いました。
因子分析は複数の設問の回答パターンの共通性を明らかにする方法で、この調査では4つの因子が得られました。クラスタ分析は回答者を同じ特徴ごとに分類する方法で、川本先生は、研究者を4因子を用いて6つのクラスタにわけました。
結論から、科学技術コミュニケーションに対する意識は多様であり、活動経験や支援体制の有無と関連していると推測されました。興味深いものは、科学技術コミュニケーション活動の未経験者が、活動に対して社会的意義と効果を高く見積もる傾向があるというものと、活動の形態も既存のメディアや枠組みを利用してのものが多いという点でした。そしてこの結果は調査対象や質問紙の構造からくる限定性があることにも言及しました。
研究者がサイエンスカフェを作るまで
量的データに対して、次の質的データの例が示されました。佐渡島で実施されていたトキの放鳥・定着プロジェクトに同行し、最終的に、研究者とトキをテーマにしたサイエンスカフェを実施するまで、参与観察を行ったというものです。
「研究者はサイエンスカフェを作り上げる過程でどのような“困難”を感じるのか」をテーマに調査が進みました。
データは、ポートフォリオ(SNSのようなもの)、メーリングリスト、ミーティングを書き起こしテキスト、研究者の調査活動の観察・地元住民への取材やインタビューデータです。
その質的データを、5W2Hにわけ、カフェ実施にいたるまでの変化を見ました。「これは、質問紙調査のような、量的データでは得られない結果であり、研究者に同行し、細かく聞き取りをしたからこそのデータです」と、質的データの特徴を述べられました。
川本先生は、万能の調査・データはないことを結論として述べました。
しかし、さまざまな手法で集まるデータを組み合わせて得られる結果を参照し、フィードバックを行いながら調査を進めるとの重要性や、実施される機会の多い、大規模なデータ収集(マクロレベル)や個々人のデータ収集(ミクロレベル)だけではなく、その中間の談話分析データ(メゾレベル)収集の大切さも教えて下さいました。
今後は、講義を参考にして、ピントの合った調査・分析・評価を行いたいと感じました。
川本先生、ありがとうございました。