レポート:濱谷ひろ子(2015年度選科 会社員)
三上直之先生(北海道大学高等教育推進機構・准教授)は、環境問題を市民参加を通してどう解決していくべきかという問題研究について、社会学をベースに取り組んでいます。今回は、科学技術コミュニケーションを事例研究という切り口で捉えた講義をされました。
科学技術の二面性と向き合う
三上先生は大学院生時代、環境問題について社会的な側面からの研究をするうちに、科学技術は環境問題の原因にもなる反面、解決に役立つ側面もある、ということに気がつきました。そして、環境問題を社会問題として理解していくためには、科学技術を「どう取り扱うか?」「どう理解しあうか?」という事柄について研究することが重要であるとの考えに至りました。そこから研究を発展させ、現在も科学技術政策と環境政策への市民参加、対話・熟議とガバナンスをテーマに研究を継続されています。
事例研究(ケーススタディ)の方法と意義
ここでいう事例研究とは、社会の中で問題になっている事例を取り上げ、具体的に証拠を集めながら考える事だと三上先生は大まかに定義されました。記録を集め、分析し、さらにディスカッションする事で諸問題の解決に繋げるのです。
そして重要な点は、小さな事例を一般的にも重要な論点にまで広げ、人々が考察する手がかりに繋げる事です。量的分析を行う研究では、母集団と同じ構成となるようにランダムサンプリングによって一部を取り出して分析し、全体について論じます。実は事例研究も同じです。少ない事例について深く理解し、それをより広い範囲での現象理解に結びつけて考えることが重要なのです。
このような事例研究の考え方は、社会の中で科学技術コミュニケーションを実践し、そのあり方を深く学ぶための効果的な技法にもなる、と三上先生は指摘しました。
事例研究のすすめ
事例研究を科学技術コミュニケーションの実践に生かすために、具体例をあげていただきました。テーマとしては、三上先生自身も参加したエネルギー政策に関する討論型世論調査をはじめ、パブリックコメント、食品安全性評価、イラストレーション作成、サイエンスアートの5例が紹介されました。これらを調査する方法としては、会話分析、議事録分析、参与観察・アクションリサーチ、ネットワーク分析が用いられています。
このように事例の読み解き方には様々な方法がある事を示すとともに、問題意識を持ち続けることの重要性についても話されました。さらに「敬遠しがちだけど、そうでもありません」と、三上先生からの論文作成のお誘いも。論文を書く際には、自分の興味と近いテーマについて書かれた論文をお手本としてみるのがよいとのことでした。
学び合える仲間がいること。
研究を進めるには対象に対する気持ちが大切であり、それが原動力になると三上先生は言います。学び合える仲間がいる事は研究を支えてくれる。それさえあれば、分析の方法はあとから磨かれていくと述べられました。
研究は真っ直ぐに進む事ばかりではありません。むしろ行ったり来たりしながら考察を深めていく場合が多く、プロセスを重視して積極的に活動してみてください、と後押ししてくださいました。三上先生、ありがとうございました。