レポート:平山悟史(2015年度本科 生命科学院博士1年)
今回の講義は科学技術の哲学が専門でCoSTEPの代表でもある松王政浩先生(理学研究院・教授)が、科学技術コミュニケーションと科学哲学の関係について講義されました。
科学は客観的か?
データの取り方や仮説の検証方法といった科学的方法は、科学者間で合意がとれたものであり、客観的で普遍的であると考えられています。しかし、科学哲学の研究者が指摘するところによると、必ずしもそうではありません。データ取得から解釈までの一連のプロセスには社会的・倫理的な価値判断が関与することはありません。しかし、研究テーマの選択や仮説の評価においては価値判断が入り込む余地があるのです。そのため、科学者はこれらの価値判断に関わる部分についてその中身を明らかにすべきである、とする考えもあります。
科学に対する新たな要請
特にリスクコミュニケーションの場において、価値判断は重要な影響を及ぼします。松王先生は、このような価値判断に積極的に関わる方向性を示している科学者コミュニティとして、日本地震学会を紹介しました。東日本大震災とそれに伴う原発事故を受けて、甚大な被害を与える大地震や津波の調査に注力すべきという考えが今、生まれています。このような、科学的にはまだ明らかではなくても考えうる可能な限りの対策を講じることを、予防原則といいます。日本地震学会は、基礎科学の研究者がこの予防原則に則って研究テーマを選択することを、強く求めているように見受けられます。
予防原則は行政が関わる部分なのか、それとも科学者も行うべきなのか。こうした日本地震学会の方針は、震災直後の一時的なものではなく、恒久的なものになりうるのか。そして地震学以外の他の災害関連科学や規制科学にもこうした考え方は適用されるのか。今、科学は、そして科学技術コミュニケーションは多くの課題に直面しています。
科学哲学の役割
講義の最後に、こういった価値判断が関わる問題を考えるきっかけとなるのが科学哲学であり、松王先生自身、多くの科学者と対話して科学哲学的検討をしていきたい、と述べられました。松王先生、ありがとうございました。