実践+発信

「学習科学から考える科学技術コミュニケーション」7/21大浦弘樹先生の講義レポート

2018.8.20

鈴木花(2018年度/本科)

モジュール3「学習の手法」の2回目、大浦弘樹先生(東京工業大学 教育革新センター 准教授)による「学習科学から考える科学技術コミュニケーション」では、学習科学の背景と理論、そしてそれはどのように科学技術コミュニケーションとつなげることができるのかについてお話しいただきました。ちなみに、大浦先生とCoSTEPの奥本素子先生は、大学院生時代のゼミ仲間だったそうです。仲良くも、度々意見が対立することから、周囲からはハブとマングースと呼ばれていたとか……。

よし、今日も何か一つ持って帰るぞ、という気持ちとともに講義に臨みました。

 

“理科教育”ではなく、”科学教育”を

現在の理科教育においては、事実として教えられる科学や単純化された探究活動が科学として子どもたちに教えられ、また、それらの経験が子どもたちにとっては全てとなってしまうことに問題があるそうです。理科で習う事象は単純化されたものでしかなく、更には実験をする際にもその方法はあらかじめ決められたものであり、実験を自らが計画することはありません。これらの問題点に向き合うために、「真正な科学実践」とはどのようなものなのか、またその実践例としてアメリカの次世代科学スタンダードと呼ばれる取り組みが紹介されました。

 

相関関係と因果関係、どう違うのか

その事例の一つとして疫学的統計分析を通しての学びが取り上げられました。統計分析によって得られるものは相関であり、それらをいくつかの判断基準と照らし合わせることで、因果関係の有無を述べることが出来る、というお話の中で、一部の人々は、実験なしには因果関係は言えないと思い込んでいるという話がありました。これもまた単一的な科学観によって生まれた認識(知識というよりも、信念に近い)の一つだと、講義の中で実感しました。

 

ナラティブ、知識から実践に移るために必要なもの?

大浦先生は、知識よりも、実践の出来るパフォーマンスや能力の方が大切であると考えていました。そのためにはまず、知識の概念的枠組みを考え、それを言葉にする必要があります。そして、その過程で必要なことが認識論的ナラティブ」の生成です。

概念的枠組みは、分野間や事象間、そしてそれら同士の「関係性」で決められるものであると大浦先生は考えます。その中で、認識論的ナラティブの生成は、外の人間からどう見えているのか、自分のあたりまえを言葉にするとどう表すことが出来るのか、ということを知るために必要であり、この過程を踏むことで実践に移せるのだ、という一連の流れにつながっていると分かりました。講義を聞きながらリアルタイムで理解することは難しかったですが、この講義レポートの執筆中にあれやこれやと考え、やっとたどり着けた気がします。そしてこれらが、この講義で最も大切な部分なのではないか、と考えています。

 

関係の中から生じる価値

目標、問題、そして道具の3つの関係から生じるものを「価値」と捉え、この価値についても研究されている大浦先生。「1つの分野からでは言えないことも、他分野との関係の中からなら言えることもある」というお話とも共通点があると感じました。

 

科学技術コミュニケーションへの示唆

最後にこれまでのお話を踏まえ、科学技術コミュニケーションへの示唆として、大きく3つのお話をしてくださいました。その中でも印象的だったのは、説明の手段としてのナラティブをどのように活用していくか、というお話でした。ナラティブ生成は、本質をつかむためにこれまでにも行っていた、物事の原因や理由を追求していくことと似ているように感じました。しかし、その突き止めたことを説明の手段として活用する、ということをより意識させられました。

 

本講義での学び

今回の講義で度々出てきた「単純化された科学」や、「過度な学習支援や作り込みのリスク」というテーマは、科学技術コミュニケーションを通じて子どもたちに科学にもっと興味を持ってもらいたいと思っている私にとって、鍵となるものでした。分かりやすくとは何か、何を分かりやすくするのか、そもそもどこからどこまで話すのが良いのかなど、この講義を通じて考える視点、切り口がまた一つ増えたと感じました。

ナラティブや認識論など、なかなか普段使用しない言葉と向き合いながら、多くのことを考えさせられた講義でした。大浦先生、濃い時間をありがとうございました。