実践+発信

数学は言葉

2010.6.29

著者:新井紀子 著

出版社:20090900

刊行年月:2009年9月

定価:1890円


数学はお好きですか、学校では得意科目でしたか。数学と聞いて、何を思い浮かべますか。計算問題、証明問題、それとも「なぜ勉強するのか」という疑問ですか。

 

 

 この本はそんな問いかけに対して、数学は論理的といわれる全ての分野の共通の言葉だから、と一つの答を与えてくれます。第二言語として数学を学び直すのも悪くはない、そう思いませんか。高校1年生までの算数と数学の知識を前提とし、すべての方に読んでほしい、そういう著者の言葉が後押しをしてくれます。

 

 

 著者新井紀子氏によれば、数学は「数千年かけて改良され続けた究極の人工言語」です。曖昧さを排除し、論理的に思考するために、そして思考の過程や結果を伝えるために、定義と記号のみからなる言葉として、古代ギリシャで誕生した言葉です。「ユークリッドの『原論』」を土台としているのです。

 

 

 けれど、数学語は特別な言葉ではありません。日本語混じりの数学語で書かれているのが算数や数学の教科書なのですから。例えば2+3=5、この数式は「2に3を加えると5になる」という数学的命題を、数字と記号からなる数学文へと翻訳したものです。

 

 

 ただ、と著者は言います。日本語は曖昧さを大切にする言語であるが故に、何もかもを明確にする数学語が難しく、日本語の内容を数学語で表すことが非日常的経験になってしまうのだと。また、数学語がインド・ヨーロッパ語を基本に構築されていることも日本人の大きなハンディであるとも言います。つまり和文の単語をただ英単語に置き換えても英文にならないように、和文の言葉を機械的に数学語の単語に置き換えても正しい数学文にならないのです。

 

 

 そこでこの本では、数学語の文法や、命題を論理的に数学の記号だけからなる数学文に変換する和文数訳の技法を、豊富な例題を通して学びます。また、論理的証明を行うために、数学文を読解する数文和訳と正しい数学文を書くための作文をトレーニングするのです。

 

 

 数学文で非常に重要な役目をする記号は論理結合子、「または・∨」、「否定・¬」、「ならば・→」など7つしかない接続詞です。数学文中の順番、例えば「全ての∀」と「〜である∃」の順番が変わればその文の意味が全く変わってしまいますし、正しく使えばグラフの違いなど微妙な差さえ的確に表現できるのです。

 

 

 数学文中でこの論理結合子を正しく理解して和訳したり、命題中の論理結合子に従って正確に和文数訳したりできれば、証明の方法は自ずと立ち現れ、大学初年級の証明であれば「機械的に」解けるとさえ著者は言います。実際に集合や自然数の性質がいとも簡単に証明されることに驚きを感じます。大学で数学を理解しにくかったのは数学文読解の練習不足のせいであり、この本を大学生時代に読んでいたら、もう少し数学が得意のままでいられたかもしれない、数学が好きになっていたかも知れない、そう思うにちがいありません。

 

 

 この本は、数字と記号、数学用語があふれていて、けっして気軽に読める本ではありません。でも、紙と鉛筆を用意し、じっくりと腰を落ち着けて取り組んでみて下さい。きっと実感できるでしょう。数学語は数学者だけの特別な言葉ではなく、誰もが人とわかり合うための言葉だと。

 

 

池田順子(2009年度CoSTEP選科生,札幌市)