CoSTEPが所属するオープンエデュケーションセンターと札幌文化芸術交流センター SCARTSが属する札幌市民交流プラザは昨年度より連携協定を締結し、札幌市におけるアートと科学の連携に向けて活動しています。
オープンエデュケーションセンターのセンター長である松王政浩先生と今年度就任した札幌市民交流プラザの斎藤義晶館長を交え、CoSTEPスタッフとSCARTSスタッフで座談会を行いました。なぜCoSTEPとSCARTSは連携し、どのようなコミュニケーションを目指しているのでしょうか。
日常の延長にあるアートと科学
*敬称略
斎藤:札幌市全体における文化予算が占める割合は決して大きいものではないですが、行政は最低限の福祉を提供すればいいというものではありません。コロナ禍の中で文化は不要不急といわれがちですが、逆にこういう時だからこそ文化的活動は必要な活動だとも考えられます。やはり日常の一部として、市民はアートを求めているんですよね。
松王:アートに比べて科学は一般の方との距離感はまだあるのではないかと思います。そういう意味では、市民とのかかわりはSCARTSからヒントがいただける部分があるんじゃないかと思います。
斎藤:本来は、日常的に暮らしを楽しむ延長線上にアートがあるのであって、アートだからと構えて考えるべきではないですよね。
松王:本来、科学もそうですよね。
斎藤:科学技術も最先端と聞くと身構えてしまいますが、我々の日常は科学の恩恵を広く受けていますからね。
社会に開かれたCoSTEPを目指して
川本:CoSTEPでは、学生だけでなく広く社会人を受け入れている教育プログラムであるということが特徴です。昨今、生涯学び続けるリカレント教育の重要性が大学の中でも検討され始めています。その中で、北大では北大らしいリカレント教育って何だろうということが議論されています。オープンエデュケーションセンターでは、オンライン教育にも力を入れると同時に、札幌にある強みを生かして、地域の文化や資源を活用した北大らしい教育を展開していきたいと考えています。
斎藤:大学も研究分野だけじゃなく、それを中心とした活動領域も拡大しているんですね。
川本:役に立つ教育だけじゃなく、大学ならではの新しい教育や創造的教育を提供したいなと考えています。そういう意味でもSCARTSとの連携は、新しいことができるんじゃないかなと期待しています。
松王:北大の場合は、今SDGsが一つの特徴になるのではないかと考えられていますが、それを生活様式だけでなく、学術的な展開と共に学ぶことができると、理想ですね。
立ち寄れるコミュニケーション
斎藤:我々の館は、SCARTSだけでなく、本格的なオペラやバレエが開催できる舞台機構を備えた劇場「hitaru」、ワーク・ライフ・アートを軸に展開する「札幌市図書・情報館」、そして市民が集えるオープンスペースがある複合施設です。ですので普段美術館に来ない方もたくさん来られます。さまざまな目的で来られた方を、どう他の活動にいざなうかというのが我々の複合施設の機能だとも思います。
川本:大学にはない機能ですね。自然な人の流れがあるところに科学技術コミュニケーションがお邪魔するというのは、とても大切だと思います。
松王:これまで札幌市の地下歩行空間「チ・カ・ホ」を活用した取り組みもありましたね。
斎藤:「チ・カ・ホ」は間口は広いのですが、あれは歩行空間なので、歩きを止めさせるのも結構大変なんですよね。そういう意味では、SCARTSは人々が足をとめることができるオープンスペースという強みがあるんじゃないかなと考えています。
アートと科学の組み合わせで生まれるコミュニケーション
樋泉:SCARTSとCoSTEPで実施する事業として、中高生を対象にした教育プログラム「++A&T -SCARTS ART & TECHNOLOGY Project- (プラプラット)」があります。この世代はなかなか文化施設に呼び込むのが難しい世代です。ただ、2020年度の3月に実施した「バイオの大きさ/未来の物語」では、アートと科学の組み合わせたテーマにひかれて高校生が参加してくれました。
奥本:あえて絵画というアナログな手法を用いて作品制作をするアーティストの久野志乃さんとコラボレーションしたことが面白かったですよね。普段であれば、科学的情報を客観的に理解することが求められていると思うんですが、そのワークショップではあえてアーティストが科学的情報を自分事の物語として語るという活動を取り入れ、科学の主観と客観との連携を促すワークショップになったのではないかと思いました。
松王:実は科学には主観は満ち満ちているんですよね。だから科学における主観の復権というものに、アートは活用できるのかもしれませんね。
樋泉:研究者の内海俊介先生や松島肇先生も、研究の内容だけでなく、研究における個人的な動機や背景の部分も語ってくれましたね。
松王:それは高校生にとっても訴える内容だったんじゃないでしょうか。
奥本:我々もSCARTSと組むからこそ生まれる新しいタイプのコミュニケーションや参加者との出会いがあると感じています。
樋泉:定型があるわけではないからこそ、試行錯誤しながら新しいものを生み出していける可能性があると思います。
斎藤:時々、異質なものが混ざり合うことが創造的な活動につながるのかもしれませんね。