2021年のノーベル化学賞は、「不斉有機触媒の開発」への貢献で、リスト・ベンジャミンさん(独 マックスプランク石炭研究所)とマクミラン・デイヴィッドさん(米 プリンストン大学)に贈られました。リストさんが主任研究者を務めている化学反応創成研究拠点(ICReDD/アイクレッド)は、文部科学省の事業である「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され、2018年10月に札幌キャンパス内に設立された一大研究拠点です。ICReDDの目的は、化学反応の本質的な理解と効率的な開発であり、計算科学・情報科学・実験科学の分野を融合させることによりこの目的の達成を目指す点に大きな特徴があります。
実は、CoSTEPの過去のコンテンツにはICReDDの研究者の方々が数多く登場しています。そこで今回はCoSTEPの活動のアーカイブから、第一線の研究者であるICReDDの皆さんをご紹介します。
伊藤 肇さん
伊藤さんの研究グループでは、ホウ素や金属を活用した有機合成の新規反応開発、「こする」「すりつぶす」といった刺激に反応特性を示す新規材料の開発や、溶媒を使用しないメカノケミカル合成という手法に関する研究が行われています。CoSTEPではその中でも、医薬品や液晶の製造に欠かせない「有機ホウ素化合物」を従来よりも安全で低コストで可能にした合成法について紹介しています。
- 有機元素化学研究室(伊藤肇教授)の実験解説映像制作に協力(2017/01/13)
- シンポジウム「デュアルユースと名のつくもの~科学技術の進展が抱える両義性を再考する」(2016/3/31)
- CoSTEP10周年に寄せて「研究者とその卵の心強い助っ人、 CoSTEP」(2015/3/18)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#6 有機ホウ素化合物の、優れた合成法を開発(2012/12/12)
- 第59回サイエンスカフェ・札幌「キセキが光る〜光る分子のミラクルパズル〜」(2011/10/14)
猪熊 泰英さん
猪熊さんの研究グループで特に力を入れて取り組んでいるのは、ポリケトンというひも状の分子を用いた研究です。粘土のひもで土器をつくる方法のように、「分子ひも」を用いることでさまざまな構造の分子を作ることができます。分子の構造はその機能に直結することから、この研究によって様々な機能を持った分子を創り出すことが期待されています。
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#153 ポルフィリン化学100年の謎を解明する〜14年にわたる研究の軌跡〜 (2021/8/20)
- 第109回サイエンス・カフェ札幌「カルボニルひもでつむぐ未来の化学~見えない分子をソウゾウしよう~」(2019/9/15)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#109 カルボニルひもで基礎研究に“遊び”を~有機化学のモノづくり~(2019/9/13)
龔 剣萍さん
龔さんの研究グループの目的は強靱で高機能なゲルを開発することです。ゲルとはこんにゃくやゼラチンのような、やわらかく水分を含んでいながらも固体性をもつものです。強靭で高機能化したゲルを作り出すことで、筋肉、軟骨、腱といった生体組織の代替として医療分野などへの応用が期待されています。
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#127 ゲルに触れると見えてくる(1)~不必要なことを忘れていくゲル?~ (2020/9/21)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#128 ゲルに触れると見えてくる(2)~科学者の発見術・発想術~ (2020/9/22)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#98 ミライのクルマは軽くて丈夫(2018/11/18)
前田 理さん
ICReDD拠点長の前田さんの研究グループでは、量子化学計算とコンピュータを用いて化学反応を予測する計算式の開発について取り組んでいます。例えば、前田さんが開発した「人工力誘起反応(AFIR)法」を用いると、化学反応を予測することが可能になります。このことは化学反応開発の迅速化に貢献することが期待されています。
- 北海道大学理学部紹介ビデオ「理(ことわり)を解き 知を創る〜北海道大学理学部〜(2018/5/14)
瀧川 一学さん
機械学習でアルゴリズムを開発するために扱われるデータの多くは表形式ですが、瀧川さんの研究では非数値による化学反応を扱うことのできる機械学習アルゴリズムの開発を行なっています。この研究によって、研究の効率化と複雑な化学反応の性質を明らかにすることを目指しています。
- 第97回サイエンス・カフェ札幌「見えるものを見るAI 見たいものを見る人間~機械に「正しく」学習させるには〜」(2017/10/23)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】「機械学習」について瀧川一学さんと一緒に考える対話の場(2017/9/27)
- いいね!Hokudai【クローズアップ】#39 機械学習研究者・瀧川一学さん(情報科学研究科 情報理工学専攻 准教授) [北大人図鑑 No.5](2017/5/16)
長谷川 靖哉さん
長谷川さんのグループではランタノイド化合物に焦点を当てた研究が行われています。ランタノイドとは、原子番号で57のランタンから71の71のルテチウムまでの元素の総称であり、その性質から希土類元素(鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等などの金属や貴金属以外の非鉄金属)として扱われています。長谷川さんのグループでは紫外線をあてると光る発光分子の開発を行なっており、2013年のサイエンス・カフェ札幌では、長谷川さんの研究によりフルカラーの発光が可能になった「カメレオン発光体」がテーマになりました。
- CoSTEP10周年に寄せて「CoSTEPは北大の未来を明るくする」(2015/3/18)
- 発光塗料を使ったデザインワークショップ(2013/8/23)
- 第70回サイエンス・カフェ札幌「光る分子が世界を描く 〜カメレオン発光体、発明!」(2013/7/27)
山本 靖典さん
ICReDD事務部門長の山本さんは、2010年、鈴木章名誉教授がノーベル化学賞を受賞した理由となった「鈴木・宮浦クロスカップリング反応」など、異なる有機化合物の炭素と炭素をつなげる触媒反応について研究されています。「鈴木・宮浦クロスカップリング反応」の実験の実演を山本さんに行っていただきました。
- CoSTEP_pr【遅ればせながら、はじめまして! CoSTEP2020年度新人スタッフあいさつツアー・ICReDD篇】(2020/9/3)
- 鈴木-宮浦クロスカップリング実験 (2011/3/05)
- ラジオ第178回:ノーベル賞受賞記念特別番組(後編)鈴木ー宮浦クロスカップリングを体験! (2011/1/23)
今回ご紹介した方の他にも、ICReDDには魅力的な研究者がたくさんいらっしゃいます。ぜひこちらよりご覧ください。